2017年4月14日金曜日

人事制度と助成金で、生産性を上げて離職率を下げられるか



厚生労働省がこの4月に創設した「人事評価改善等助成金」に関する案内を見ました。                    

その目的は、「生産性向上のための人事評価制度と賃金制度の整備を通じて、生産性の向上、賃金アップ及び離職率の低下を図る事業主に対して助成するものであり、人材不足を解消すること」とのことです。
人事評価制度等の制度整備に対して50万円、1年後の目標達成で80万円が助成されるということです。

制度整備はあえて説明の必要はないと思いますが、目標達成といっているのは、「所定の計算式による生産性が3年前に比べて6%以上伸びていること」「離職率を計画時から低下させること」「毎月の賃金を2%以上増加させること」の3要件すべての達成が必要とのことです。

特に中小企業にとっては、こういう助成金というのはそれなりに利用価値があるものですし、これをきっかけに制度整備や組織の仕組み作りを進めようという企業が増え、なおかつ業績アップに貢献してくれれば、(私のお仕事の機会が増えるかも?という意味でも笑)良いことだと思います。

ただ、これは助成金というやり方の限界なのかもしれませんが、この「目標達成」に関する要件に、どうしても違和感をもってしまいます。「人事制度」「評価制度」の導入と1年程度の運用で、生産性が上がって離職率が下がることに直接つながるとは、人事が専門の私には、とてもそうなるとは思えないからです。

もちろん、人事制度や評価制度は、ただ作っただけでなく、運用した結果として何らかの成果を生まなければ意味がありません。それゆえに「目標達成」についても助成するということだと思うので、それは十分に理解できるところです。

ただ、本来こういうことは、数年以上の中期に渡って追いかけながら、途中経過で制度を見直していくことも必要になります。
しかし、助成金という制度の性格上、支給に至るまでの期間があまり長くなるのは好ましくないでしょうし、明確な支給基準も設けなければなりません。そんな中から出てきたのが、「生産性」や「離職率」だったのだと思いますが、たぶん制度設計した人たちも、苦肉の策だったのではないでしょうか。

この助成制度ができたことで、俗にいう「助成金ビジネス」が動き出し、「評価制度で生産性を上げよう」「人事制度で離職率を下げよう」のような営業トークが出てくるでしょうし、「この制度を入れればすべて解決」のような売り込みをするところもあるでしょう。
「助成金受給のための目標達成テクニック」みたいな話も出てくるかもしれませんが、そうなってくると助成金受給そのものが目的化してしまい、本来あるべき姿からはどんどん遠ざかっていきます。

私が言えることがあるとすれば一つだけ、「そんなに簡単に生産性は上がらないし、離職率も下がらない」ということです。組織改革には息の長い地道な取り組みが必要であり、助成金はあくまでそれを補助するものと考えなければ、本来やるべき継続的な取り組みがおろそかになります。

私個人としては、あくまでその企業にとって何がベストかを考えてご支援をするということしかありませんし、その中でこの助成金が有意義に活用できるのであれば、それに越したことはありません。
ただ、誤解を恐れずに言えば、助成金というのは一種の麻薬のようなところがあります。ビジネス感覚を鈍らせたり、またもらいたいという常習性があったりします。
本来の目的を誤った、本末転倒な活用だけは避けなければならないと思います。


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