2017年11月17日金曜日

「売り手市場」と「買い手市場」、どちらもミスマッチが増幅する怖さ



来年4月入社に向けた新卒採用はほぼ終息し、もうその次の年に向けた活動が始まっています。
今年は空前の売り手市場と言われ、特に企業側の担当者の苦労は大きかったですが、では学生はみんな楽をして幸せだったかというと、決してそんなことはありません。決まる人とかなかなか決まらない人の差が大きかったり、必ずしも希望通りの業種や職種とはいかなかったり、そうそう思い通りにいくものではありません。

また、こういう「売り手市場」と言われるときは、短い活動期間ですぐに内定が出てしまう人がたくさんいるので、会社との相性や自分の適性を深く考えるところまでには至らずに入社を決めてしまうことがあります。会社側も人数確保を優先して、多少の適性不一致には目をつぶっていたりします。
結果として、入社してから「こんなはずではなかった」「こんなこととは思わなかった」というミスマッチを感じて、早期の退職につながってしまいます。さらに新入社員の側には、心のどこかに「入社してやった」という気持ちがあって、見切りが早まっているときもあります。

ただ、これと同じことは、就職氷河期と言われた「買い手市場」の時にも起こっています。
このころは、なかなか内定がもらえない学生側が、妥協に妥協を重ねてようやく内定を得られた会社に入社しているというようなことがたくさんありましたし、それに乗じて応募者をずいぶん雑に扱った会社もありました。すべてではないですが、「採用してやった」と思っている会社がありました。
新入社員は苦労して入社しているので、見切りの早さは売り手市場の時ほどではないですが、それでも当初の希望に反しているということでは同じくミスマッチとなっていて、やはり何かちょっとしたきっかけで退職につながってしまいます。無理して合わせていても、いつかどこかでうまくいかなくなります。

このように、「売り手市場」や「買い手市場」では、力関係がどちらかに偏っていることで、そこから生まれたひずみが原因でミスマッチが起こっています。ここで大きいのは、それぞれ「入社してやった」「採用してやった」という意識の問題です。これは「入社させてもらった」「採用させてもらった」という一見すれば謙虚に思えることでも、自分を卑下して力関係のバランスを偏らせていることでは問題は同じです。
もちろん、会社に恩義などを感じていてくれればそれは有難いことですが、そういう感情は時間とともに変わるもので、深まるよりは薄れていくことがほとんどでしょう。

私がこれまで長らく採用活動にかかわってきて、最も好ましいのは、単に「入社した」「採用した」とお互いが変な思い込みを持ち過ぎていないイーブンな関係です。この関係を築くには、どちらかと言えば会社側の態度が大きく影響すると思っています。

これは「市場環境に引きずられて相手に対する態度を変えない」ということです。「自分たちの都合で駆け引きをしない」ということでもあります。
もちろん採用基準や募集職種、労働条件などは会社の事情で変わるものです。ここで「相手に対する態度」と言っているのは、情報提供の仕方や内容や、相手を威圧したり反対に懐柔したりというような偏った接し方のことです。

私も今まで数多くの会社の採用担当者と接してきましたが、ある人は就職氷河期と言われたころ、「うちの会社は厳選採用だ」と言って胸を張り、選考基準や入社後研修の厳しさを自慢していましたが、環境が変わっても同じことが言えるのかは疑問でした。
またある人は、「とにかく入社させてしまえばこっちのもの」と言って、応募者と様々な駆け引きを駆使していましたが、都合の悪いことはあえて言わないというような不誠実なこともしたようでした。
それぞれ、その会社なりの考えがあってのことでしょうが、どちらもミスマッチの温床になることで、長い目で見ると、お互いがあまり幸せにはならないことです。

今は「売り手市場」ですが、こういうときほどミスマッチは起こりやすくなります。かかわっている人は、自分の身の回りを今一度見直す必要があると思います。


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