育児や介護による休業制度は、1991年に法律が制定され、徐々に改訂を進めながら今に至っています。今でも男性の取得率の低さなどの問題が言われ、さらに導入当初は休業する当事者の経済的な負担や数多くの制約がありましたが、今はそこから比べればずいぶん環境が整備され、企業の現場での関係者の認識も制度の必要性も理解され、その利用も進んで定着してきています。
しかし、そんな今の時代でも、中小零細企業の中には、未だに育児休業の取得実績がない、復職できない、産休後はみんな退職してしまうという会社がまだまだあります。平気な顔で「中小企業に育児休業なんて無理」などと言い切る人がいますから、20年以上前の感覚で止まってしまったままです。
ひな型通りの規程は作られていますが、一度も利用実績がないので、何が良いのか悪いのか、ほとんど理解されていないのは、無理もないところでしょう。
育児や介護の分野は、すでに義務化されていることなので、環境問わずにやるしかありませんが、最近は「働き方改革」の一環で、在宅勤務をはじめとしたリモートワークの制度、短時間勤務や勤務地限定のように仕事をする時間や場所に柔軟性を持たせる制度など、多くの新しい制度が検討、導入されています。
これも大企業であれば、制度導入に合わせて対象者を見つけ、運用を重ねて制度をブラッシュアップしていくことができますが、中小企業の場合はそうはいきません。制度はあるがいつまでたっても利用者がいないとか、最初にうんと苦労してしまったために、以降の取り組みが敬遠されてしまっているとか、有名無実の制度になっていることが多々あります。
その一方で、様々な制度をうまく導入して定着させている会社がありますが、そういう会社に共通しているのは「制度ありきではない」ということです。
ある会社では、育児中の社員からの要望で在宅勤務の制度を導入しましたが、一般的な決め事はしたものの、それ以降は実際に運用する中で、未確定だった部分や使いにくいなどの不都合な部分を制度の中に組み込んでいきました。具体的には勤務時間を把握するルールや、IT環境の使い勝手が課題になり、本人と会社が話し合いながら決めていったそうです。
その後しばらくしてから二人目の利用希望者が出てきて、その人とも同じように制度の決め事の見直しをおこない、それが三人目くらいになると、ほぼ会社の実態に合った形で、実効性のある制度が作り上げられていったそうです。
うまくいかない、定着しない、尻つぼみになってしまった会社は、このすり合わせの部分をあまりやっていないか、途中で力尽きてやめてしまっていることが多いようです。
初めからきちんとした形の制度を示すのは、もちろん意味があることですが、すべての問題を想定することはできません。ここで「決まりだから従え!」とやってしまうと、利用者は増えず、制度は定着せず、せっかくの取り組みが意味を持たなくなってしまいます。
もう一つ、私が重要だと思うのは、制度がなくても社員の側から「こんなことができないだろうか」と相談や要望が会社にあがってくるような組織風土です。一方的なわがままでなく、会社と話し合いながらルールを決めていっていることからも、会社と社員の間の信頼関係がうかがえます。
会社としての新しい取り組みの成否は、やはりこんな基本的な人間関係が重要なことは確かなようです。
0 件のコメント:
コメントを投稿