2019年2月25日月曜日

すでに変わってきている「異動」への考え方


大企業の管理職を経て、40代で人事の専門家として独立した知人が、ご自身のキャリアを振り返っている記事がありました。人事の仕事でなりわいを立てたいと気持ちが定まった頃に異動の打診があり、その際「独立も考えているが、完全に会社から離れるのではなく、会社の業務を請け負わせてもらえないか」と話したところ、それが会社に認められて独立し、今も退職した会社にかかわり続けながら活躍しています。

会社の入社当時は、営業として海外を舞台に活躍したい夢があったそうですが、その後の意図せぬ異動で人事部勤務となりました。今までの経験がまったく活かせないことで、早く営業に戻りたいと思っていたそうですが、ダメ出しをされていた上司を見返したいなどの思いから一念発起で勉強し、人事の仕事の面白さを感じるようになっていってそうです。

そこでまた全く畑違いの部署に異動となり、不本意な気持ちはありながらも真面目にやりがいを持って取り組み、課長にも昇進しました。
そこからまた異動で、自己申告でずっと希望し続けていた人事に戻ることとなり、4年ほど経ったところで、独立のきっかけになる異動打診だったそうです。

会社に雇われている立場では仕方がないことですが、自分の意にそぐわない異動では、ずいぶんいろいろ悩んだということでした。同じような経験をして、一喜一憂したり黙々と従ってきたりした人は、数多くいることでしょう。

ただ、このあたりの様子は近年ずいぶん変わってきています。
「管理職になりたがらない若手社員」の話がありますが、ただ大変な仕事はしたくないというだけでなく、管理職になると現場の実務でキャリアを積むことが難しくなるので、実務的な専門性を失いたくないと考える人がいます。
一流大学卒でも総合職でなく一般職を希望する人も、ネックとなっているのは異動に関する問題です。転勤などを避けたいという思いがあります。
「自分のキャリアは自分でデザインする」という意識は、若い世代ほど強いように感じます。

会社でも、個人キャリアに関する希望を聞き、その配慮へのスピードが増しています。勤務地限定制度はこういった希望対応の一つですし、適材適所が企業にも有益ということで、それはタレントマネジメントなどの形で実践されています。会社の都合で一方的に社員のキャリアを決めることが、会社にとっても良いことではないと気づいているからです。
その一方、社内ゼネラリスト志向の旧来の異動を続けている会社も、まだまだ多く見受けられます。

少し前に放送されたテレビ番組で、今の人手不足と働き手の意識の変化から、社員が会社にしがみついていた時代は終わり、これからは「会社が社員にしがみつく時代」というものがありました。
以前は社員の引き留め策として機能していた年功賃金・退職金制度は効かなくなり、最近は「リテンション」と呼ばれる“社員を辞めさせない戦略”が注目されるようになりました。
残業削減など働く環境の改善や、AIを使って辞めそうな社員を予測して集中的に対応するといった取り組みもあるようです。

今の時代、社員は自分のキャリアや市場価値にはとても敏感で、意にそぐわない仕事をさせる会社は、さっさと辞めて転職していきます。ただ、本人希望ではない異動によって経験した仕事が、実は天職だったという例もたくさんあります。
一方的な会社都合での「異動」はもう通用しませんが、会社にとって社員の「異動」は必要であり、これからはいかにきちんと話し合って、お互いが納得し合えるかに尽きると思います。

最近、ある大手企業が、間接部門の要員を5000人規模で、営業や技術職に配置転換するという話題がありました。全く異なる職種への転換なので、実現を疑問視する声や「リストラしたいのが本音」と揶揄する声があります。いろいろ事情はあるのでしょうが、少なくとも私は、会社の一方的な都合が強く、最近の「異動」に対する考え方からは遅れていると感じます。
「異動」の考え方は、会社にとっても社員にとっても、すでに大きく変わってきています。


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