2019年7月11日木曜日

「新卒の給与1000万円」で気になること


世界的にIT人材の獲得競争が激しくなる中で、NECが新卒でも1000万円以上の報酬が得られる人事制度を導入するという報道がありました。
研究職と技術職については基本給を引き上げてボーナス上限を撤廃し、評価次第で新卒でも給与が1000万円を超える可能性があるとのことで、学会での論文発表や、すでに起業して業績を上げているなど、評価できる実績があれば対象となるそうです。

また、回転寿司チェーンのくら寿司でも、入社1年目から年収1000万円の幹部候補生を「エグゼクティブ採用」として募集するという話がありました。年齢制限や必須資格などの条件があり、最大で10名を採用する予定とのことです。

どちらも一般的な新卒の初任給の枠から外れた処遇ですが、特に海外の優秀な若手人材を採用しようとすると、日本の平均的な給与水準では、そういった人材を集められないのが最近の実態です。
少し前には、ユニクロを運営するファーストリテイリングが、来春入社する新入社員の初任給を2割引き上げるという話題がありましたが、こちらの理由も海外人材の獲得とのことで、従来の新卒採用の枠組みを維持しながら、精一杯の対応をしたということでしょう。

中国のIT企業の日本法人が、大卒初任給で40万円以上を提示して話題となったことがありましたが、グローバル展開をする企業ではごく普通の給与水準で、技術系社員では50万円を超えることも珍しくありません。
こういう話を聞いてしまうと、直近で日本企業は空前の好業績などと言っていたのは、社員の給料を値切ったおかげのように思えてしまい、ちょっと考えてしまいます。

それはさておき、この新卒でも高い処遇を得られる制度は、特にグローバル展開する企業では、私は取り入れるところが増えていくのだろうと思います。
世界的にも雇用主と従業員の力関係が逆転したなどと言われ、優秀な人材の獲得競争は激化していますから、そうなるのは市場原理として当然です。年功序列の発想がまだまだ強い日本企業が、いったいどこまで対応できるのかはわかりませんが、たぶん「特別な採用枠」のような扱いで進めていくのでしょう。

そうなると、今までのような社員採用というよりは、プロアスリートのスカウトやドラフトに近いイメージになってきますが、そこでの課題は大きく二つ考えられます。

一つは、その対象になる優秀な人材に対して、給料が際限なく高騰していくのではないかということです。これがプロアスリートの場合であれば、契約金や年俸で何らかの上限が決められていますが、ビジネスパーソンの場合、それは簡単ではありません。高騰が止められず、代わりにその他大勢の普通の社員たちの給料が抑えられる可能性があり、そこから適正レベルといえないほどの差がついていくかもしれません。それはいろいろな不信や不満につながる恐れがあります。

もう一つは、どんなに優秀な人材でも、新卒レベルではやはりポテンシャルを見なければならないことで、高待遇で迎えたなりの効果が得られるのだろうかということです。
プロアスリートであれば、プレーしている様子を常に観察して、定量的に評価できる成績やデータがあり、その上で将来性を判断して入団交渉などをしますが、ビジネスパーソンではそうはいきません。能力と仕事の合致度合いは数字で評価するのは難しいですし、環境その他による変動要素が非常にたくさんあります。

また、プロアスリートの場合でも、同じくプロフェッショナルのスカウトが長年追いかけて見続けて、データも蓄積していけると判断して、それでも芽が出ないアスリートもいる訳です。これがビジネスパーソンとなると、さらに不確実性が大きくなるでしょう。
実際、くら寿司では、「入社しても日が浅い段階で辞めていくリスクはあり、定着するかどうかは入ってみないとわからない」「一定数は定着してくれるのではないかという淡い期待は持っている」と言っています。できることは「人を見る目を磨くこと」くらいしかありませんが、将来のことがわかるのは、正直神様くらいしかいません。
このように、人材の見極めには限度があり、それも含めてどこまでやるかでしょうが、今までやってきた通常の採用活動のイメージがついてしまっていると、切り替えることもなかなか難しさがあるでしょう。

私は、処遇に柔軟性を持たせて、その人材レベルに合わせて対応するのは必要なことですし、良いことだとも思っています。ただし、そのデメリットはいろいろ気になります。企業が人の集まる組織である限り、大きすぎる格差はあまり好ましくない反応が出ます。
平均値を高めながら一流人材にも対応するような、そんな全体のバランス感覚が必要だと思います。


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