ある会社の部長が、どうしても苦手でやりたくない仕事があるそうです。
「部長になればそんなことがあるのは当たり前」「ゴチャゴチャ言わずにやればいい」と言ってしまえば身も蓋もありませんが、本人にとっては相当切実なようです。
こうなった時にできることは、三つほど考えられます。
一つ目は、自分が我慢してやることです。それだけでは何も変わらないので、最短時間で終われるように効率化する、気分を変えたりスキルアップしたりして、苦手意識でなくすことなどはできそうです。
ただ、苦手なことを嫌々でやる限り、それほど良い成果は見込めないでしょう。
二つ目は、他にやってくれる人を探すことです。部長であれば誰か部下がいるでしょうから、この方法が一番実現性は高そうです。
ただし、指示した部下にはそれなりに納得してもらう必要があります。「部長の指示だから仕方がない」「自分のためになりそう」「そんなに嫌な仕事じゃない」など、納得してくれる理由は何でもいいですが、少なくとも部長からは何らかの説明をしなければなりません。
これは理屈が合っていれば良いというものではなく、納得のためには共感してもらうことが必要です。「自分が苦手なので頼むよ」でも「君の経験にとってプラスだよ」でもいいですが、そこには部長に対する尊敬、信頼、親近感など、何かしら部下が認めた人間性が必要です。そんなことは無視して、権威で抑えてつけてやらせる方法もありますが、強制は確実に反発を生みますから、あとから困ることが出てきます。
だからと言って、下手に出ても、必ずしも共感されるとは限りません。警戒されたり軽蔑されたりすることもあり、こればかりは部長の日ごろの行動と人間性次第です。
また、自分にとっては苦手なことでも、それが好き、得意という人は必ずいます。そういう人を身近に見つければ、説明の労力は軽くて済みます。そもそも、苦手な人にやらせても成果は出ませんから、より良い人を適材適所で考えるのは、部長の役割としては普通のことでしょう。
三つめは、その仕事自体をなくしてしまうことです。実はもともと優先度や必要性が低い仕事かもしれませんし、その仕事をやらない代わりに、何か違う対応をすればよいことかもしれません。それを考えたり調整したりすることは、部長クラスであれば普通にやることですし、十分可能なことでしょう。
このように、「やりたくない仕事」「苦手な仕事」への向き合い方には、いくつかの選択肢がありますが、この部長の問題は「愚痴を言いながら我慢してやる」という以外に何もしていないことです。ああだこうだと言いながら、基本的に無作為です。
これが一般社員であれば、権限もありませんから、何もできないのは仕方がないところもありますが、最近は新入社員であっても、自分が指示された仕事に関する意義の説明を上司に求めます。ちょっと古い世代の上司は、「黙って言われたことをやればよい」などと不満を言いますが、他人の指示で動かなければならないことを、説明を受けて納得したいと考えるのは自然のことです。少なくともそうやって自分から行動しようとします。
しかし、この部長は自分から行動しません。ただし、それは行動力がないというよりは、別の選択肢を持っていないからのようにも見えます。部下との信頼関係や周囲との関係、調整能力といったところがあまりないようです。
しかし、それは結局日々の仕事ぶりの積み重ねの結果として起こっていることです。たぶん同じような無作為、無責任といったことが他の様々な場面でもあったはずで、周囲からのサポートを受けにくい立場を自分で作ってしまっていたのではないでしょうか。
特に、部長として、ほぼ通常のマネジメントにあたる二つ目の対応をしないのは、何か相当な事情があるか、それとも能力が不足していることしか考えられません。
いずれにしても、自分に困ったことが起こる原因は、自分自身で作り出していることがあります。そこでは「自ら行動しない」ということが、意外に大きな位置を占めているように思います。
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