2019年9月9日月曜日

「時短ハラスメント」と本当の「時短」している会社の違い


「時短ハラスメント」は略して「ジタハラ」といわれ、働く人の労働時間を無理に短縮するなどの嫌がらせを指しています。

社長や役員をはじめ、管理職が「早く帰れ」「残業するな」と命令しますが、仕事量には変化がなく、単に労働時間だけが短縮され、会社からは定時で強制的に追い出されるために、持ち帰り残業やサービス残業が増えて、かえって労働環境が悪くなったという現場の声もあります。

長時間労働が大きく報じられた広告代理店で、その対策として深夜時間帯の全館消灯をおこないましたが、実際には結構電気がついているとか、出退勤を管理する出入り口のゲートをほふく前進で戻っているとか、冗談か本当かの区別がつかないような話もありますが、これほどではなくても、同じような「時短ハラスメント」にあたるような話は、多くの会社で聞くところです。
いずれにしても、残業時間削減の形だけの要求では、まったく問題解決にはなりませんし、それを自覚して動き始めている企業もたくさん出てきています。


ある知り合いの会社は、顧客を定期訪問しながら仕事の依頼を受けて、期限までにサービス提供するお仕事ですが、顧客が遅い時間の訪問を依頼してきたり、やたらと短納期の依頼があったりします。
今までは「顧客優先で請けられるものは請ける」という姿勢で、基本的に現場の裁量で判断していましたが、担当者の判断で顧客依頼を断ることはなかなか難しく、時間的なしわ寄せは自社で被るしかありませんでした。

はじめは業務効率化の名目で、自社内だけで対策をしていましたが、根本的な解決にはなりません。
そこからは会社主導で、まず顧客あてに依頼時間の制限(具体的にはある時間を過ぎた依頼への対応は翌日に回すなど)を周知して、残業につながりやすい依頼を断るようにしました。ただし、緊急対応は別途料金がかかる場合があるが、相談してほしい旨も追記して説明をしました。

そうしてわかってきたことは、例えば遅い時間の訪問依頼や短納期の依頼は、実はそれほど切羽詰まっていたり、絶対条件になっていたりするわけではなく、「頼めばやってくれるから自分たちの都合を言っていただけ」ということでした。
「何かあれば相談するのでその時はよろしく」といわれ、こちらの依頼時間の指定には問題なく合わせてくれました。「お互い“働き方改革”の世の中だからね」などと、好意的に反応してくれる会社もあったそうです。

ある食品製造販売の商店では、人手不足からやむなく営業時間を短縮しましたが、ほとんどの顧客は店の新しい営業時間に合わせて来店してくれるようになり、心配していた売上への悪影響はほぼないそうです。商品の提供時間を工夫したり、タイムセールなどを行ったりすることで、顧客の流れが結構変わることもわかったとのことです。

このように、「時短」というのは自社の努力だけではどうしようもないことも多く、顧客にもサービスの限定のような形で協力を依頼しなければならないことが少なくありません。ただし、それを現場レベルだけでやるのは、これまでの経緯からの難しさがあります。
その一方、自社としては一生懸命にやっていることが、顧客にとってはそれほど重要なことではない場合も多々あります。こちらから見るとサービス低下になることでも、顧客にとってはそれほどでないことはあります。
いろいろ打診してみると、顧客も意外に協力的だったりします。

もちろんこんなに理解がある顧客ばかりではなく、取引停止などの強硬な態度を取られることもあるでしょう。ただ、本当の意味での「時短」を実現するためには、軋轢を乗り越えなければならないことはあります。
「時短ハラスメント」の会社は、「社員の仕事の仕方が非効率」だけの仮説のもとに、労働時間を締め付けることだけで解決しようとしていて、本当に会社としてやらなければならないことから逃げています。「残業代さえ減ればよい」「労基署がうるさいから」など、そもそもの志が低いのかもしれません。

ドイツの労働時間の短さの理由に、「お互いがサービスをあきらめている」というお国柄があると聞きます。誰かが休むことによる不便は、自分も休むのでお互い様のこととして、受け入れているのだそうです。

「時短ハラスメント」の会社は、それを現場に丸投げし、本当の「時短」している会社は、仕事をどう効率化するかということを、会社ぐるみで考えています。


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