今のような変化が激しい仕事環境の中では、よく「スピードが大事」と言われます。
最近、知り合いの経営者数人との会話の中で、仕事をする際の「相性」という話になりました。ちょっと言葉を変えると「気が合う」とか「価値観が似ている」といったニュアンスです。
一緒に仕事をする上で、やはりお互いの「相性」の良さは大事であり、私自身も顧客や取引先との「相性」は気にします。「相性」が良ければ仕事の意思決定が速くでき、その後も物事が速くスムーズに運ぶからです。
一方で、そのスムーズさには問題もあります。視野が狭い状態で十分な検討がされていないまま物事が進んでいくかもしれないことです。「多様性」の欠如といえるかもしれません。
仕事のスピードについて「拙速」という言葉があり、「出来はよくないが仕事が早いこと」を言います。仕事が早いのは決して悪いことではありませんが、実際の使われ方としては、「議論や確認が中途半端、あいまいなままで、ただ結果や結論を急ぐこと」を言われ、「スピード」ばかり追いかけることに対するネガティブな表現で使われることが多いようです。
この「拙速」の反対語は「巧遅」といい、「出来は優れているが、仕上がりまでに時間がかかること」です。
故事に「拙速は巧遅にまさる」もしくは「巧遅は拙速にしかず」という言葉があるそうで、これは「仕事の出来が良くても遅いより、出来は悪くても速い方がよい」という意味です。「多少出来が悪くても、迅速に物事を進める方が良い」とのことなので、「スピード」を重視した方が良いと言っています。
これらはいずれも仕事や行動に対する「スピード感」にまつわる話ですが、とにかく速い方が良いと言ったり、速すぎるのは問題と言ったり、正反対な話を含めていろいろあります。
私が現場を見てきた中では、例えばスタートアップの会社は、とにかくスピード重視のところが多かったと思います。
そういう環境では、「気が合う」「価値観が似ている」「目標が同じ」など、関係者間の「相性」の良さが重要になりますが、決して仕事の質をあきらめている訳ではないので、限られた時間の中でできるだけの議論をしようとします。
結果としてメンバーたちがかなりの長時間労働に陥っている様子も見かけましたが、そういうことも含めての起業、スタートアップなのでしょう。
一方、ある大手金融機関の関係先でちょっとした仕事をしたときのことですが、何でも多くの時間をかけることが私にとっては結構な驚きでした。数枚の資料の確認や承認に1か月以上の時間がかかり、社内の関係先も多い様子でした。業種柄への信頼感や社会的責任の重さなどを強く意識しているせいか、とにかく間違いがあってはいけない、そのために確認を徹底することが優先されているようでした。
たぶん対象物によってメリハリはあるのでしょうが、とにかく慎重に時間をかける様子が印象的でした。
社会環境として「スピードが大事」という一般的な方向はありますが、最も良いのは「速くて質が高くて誤りがないこと」です。結局はその時に置かれた状況によって、誰もが速さと質のバランスを考えます。
ではどんなバランスが適正なのかといわれると、これを一概に言い切ることはできません。ただ、一つだけ言えるのは、このバランスを常に考えながら柔軟に対応することが必要だということです。
車の運転のように、目的地に向かうことは同じでも、途中の状況に応じてアクセルとブレーキを使い分けることですが、到着時間のことばかり言われれば、速度超過の危険な運転になるかもしれませんし、逆に一定速度でノロノロ走れば、渋滞の原因になって周囲に迷惑をかけるかもしれません。
ルートの選択には道路の広さや走りやすさ、交通量の問題などで、速いものから時間がかかるものまで、安全なものから危険なものまで、さまざまなものがあります。さらに昼間か夜間か、晴れか雨か雪かなどの天候によっても条件は変わります。
これらを決められた交通ルールのもとに、状況に応じて個別に判断していくことになります。「速さ」と「質(この場合は主に安全性)」のバランスですが、走っている途中で状況が変わることも当然あります。
最近目につくのは、「スピード重視」といって一部の人が独断で誤った結論に導くことや、反対に責任の回避したいのか、いつまでも結論を出さずに傍観する「スピード感の欠如」です。どちらも速さと質のバランスを欠いていることは間違いありません。
その仕事の適切な「スピード感」は、常に意識していなければなりません。
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