2014年6月23日月曜日

スタジアムの掃除が「実は仕事を奪っている」という話


サッカーのワールドカップの話題に、日本人のサポーターが試合後のスタジアムでゴミ拾いをしていることが、海外メディアから「礼儀正しい」などと賞賛されているという記事が出ていました。

この行動自体は、ワールドカップでは初出場のフランス大会の頃からやられていますし、国内のリーグ戦や親善試合でもわりと日常的に行われていることです。以前も同じように取り上げられて褒められていたことがあるので、今でも話題になるということは、海外ではそれだけ珍しいことなんだろうと思います。

日本人が褒められれば悪い気はしないですし、私は単純に良い行動だと思っていますが、あるコメントを見てちょっと考えさせられることがありました。

それは、この行為が海外では、「スタジアムでの清掃を仕事としている人から、仕事を奪ってしまっている」というマナー違反として捉えられるという話です。
それを仕事にしている人がいる限り、いくら親切心などであったとしても、他人の仕事を奪う行為は許されないという考え方だそうです。

なるほどそういう視点があるのかと思いながら、これと似た話は、特に日本の会社の中では結構よくある話なのではないかと思いました。

例えば、社内の清掃を社員と一緒になって行う社長さんの話があります。こういうことに対して、よく言われる捉え方は、「経営者の率先垂範」「偉ぶらずに社員目線で行動している」「社員との距離が近い」などという好意的な話です。

ただ、これも視点を変えて考えると、社内清掃は“必ずやらなければならないが付加価値がある訳ではない仕事”ですから、経済合理性でいえば、社内で最も給料が安い人、例えば新入社員などがやることが合理的です。

秘書がついているような経営者や役員などが、スケジューリングや電話応対やコピー取りなどを全部自分でやり始めたりすれば、「秘書の仕事を奪っている」と言えるでしょうし、部下に教えればできる仕事なのに、上司はそれを教えずに自分で抱えこんでいたとしたら、これも同じく「部下の仕事を奪っている」と言えます。

特に日本人的な心情として、雑用のような仕事を他人にやらせることは、ついつい気が引けてしまうところがあります。もちろんこれが会社のような場所ではない、それぞれの役割がイーブンな間柄であれば、雑用のたぐいは関係者の間で分かち合うということで良いと思います。

しかし、会社のようにそれぞれが担う役割が違っている場所では、経営者も役員も上司も、「自分以外でもできる仕事」はできるだけ他人にまかせ、「自分でなければできない仕事」に集中することが求められるはずです。

ただ実際にいろいろな会社を見ていると、このあたりの意識が希薄で、上司も部下も同じような内容の仕事を、みんなで分かち合っている場面に出会うことが多々あります。
特に上位の役職の人が「自分がやるべき仕事」「自分でなければできない仕事」を把握していないことは、会社として大きな問題であることは間違いありません。

「他人に迷惑をかけない」「自分のことは自分でする」ということは、とても大事な価値観だと思いますし、日本人が持ち続けてきた資質として、これからも大切にしていきたいと思います。
スタジアム清掃の話も、海外の人たちから褒められているということは、ただ「仕事を奪っている」という観点だけではない証拠だと思います。

その一方で、「その場での自分の役割に応じた行動を適切に選択する」という考え方も、どこかには持っておく必要があるのだろうと思います。


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