2016年3月16日水曜日

要求するばかりで返さない人



もう10年近く前の話になりますが、ある会社の人事制度検討プロジェクトでのことです。
その会社の中核を担っている部長クラスの5名ほどをメンバーとして、プロジェクトを開始しましたが、すぐに検討が進まなくなってしまいました。

ある一人の部長が、とにかく自部門のビジネススタイルが高く評価されるように、利益代弁者のような意見を終始言い続けるのです。
強硬とか強引という態度の物言いではありませんが、自分たちに有利に働きそうな意見をしつこく取り上げ、不利になる可能性が少しでも見えるといつまでも妥協しません。

社内的には新しい取り組みをしている部門だったので、それなりの苦労があることは理解できますが、業績上の結果は出ていないので、一般的に考えればそれほど高い評価ができるような状態ではありません。
にもかかわらず、「先進的な取り組みをしている優越性がある」「結果が出ないのは新規事業であれば当然」「自分たちのような部門は、他とは異なる視点で高く評価されるべき」というような主張を繰り返します。

これが論理的にまったくおかしいとは言いませんが、「自分たちはすごくて、他はたいしたことがない」というような主張を、本来は大きな視野で全体最適を考えるべき立場の人が延々と繰り返すので、他の参加メンバーたちが呆れて議論が止まってしまったということです。

仕方がないので、このプロジェクトの最終責任者だった人事担当役員に、議論から離れた場で個人的な意見を求めてみることにしました。
そこで聞かされたのは、この部長は他のことでも同じように、自分の都合ばかりを主張する傾向があるのだということでした。

例えば、出入り業者に長期契約をにおわせながら散々値切った挙句、数回発注しただけで契約を打ち切ってしまったり、重要顧客からの紹介案件を、条件が合わないという理由だけで断ってしまったり、どこかのお店に行っても、値引きやサービスを要求するわりには金払いが悪かったり、要するに「要求するばかりで返さない人」なのだそうです。

会社の中核を担う部長の一人ですから、この姿勢が「妥協せずに実入りを増やしている」という良さにつながるところはあるようですが、こと対人関係という面では“付き合いづらい”“信頼されづらい”ということがあるそうです。
よく「Win-Win」と言って、双方に得のある良好な関係が、ビジネスの上では望ましいといわれますが、この部長の行動パターンは、典型的な「Win-Lose」ということです。

この「Win-Win」は、実行しようとしても意外に難しいところがあります。一見すると「Win-Win」のように見えても、実はそれが当事者同士の局所的なもので、視野を広げると「Win-Lose」になってしまっているようなことがあるからです。
自部門内では良いが全社的にはダメだとか、自社にとっては良いが業界全体としてはダメだとか、そのようなことは意外に起こりがちです。

私個人のことで言えば、いろいろな人を介して仕事をさせて頂くことが多いので、常に「Win-Win」の関係を意識する必要があると思っていますが、資本主義であれば必ず競争が存在するので、どこかで「Win-Lose」が起こってしまうことは避けられません。

それでも私は自分のポリシーとして、「要求するばかりで返さない人」にだけはなりたくないと思っています。


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