2018年11月26日月曜日

「パワハラ対策」の議論への何となくの違和感


厚生労働省は、職場でのパワハラ対策について、法律で企業に防止措置を義務付ける方針とのことです。
最近、その手の行為の動画をよく目にしますが、本人がそれを犯罪行為に準ずるという意識ならば、たぶんそんな証拠は残さないはずで、こういったイジメ行為には、加害者にその意識がほとんどないことが一番の問題です。
対策強化としての法制化は必要だろうと思います。

ただ、報道されている記事を見ていると、経営者側からは、パワハラは定義があいまいで、業務上の適正な指導や叱責との線引きが難しいという指摘が出ていて、「法制化ではなく、指針によって企業に対策を呼びかけるのが現実的だ」といっているそうです。
上司が必要な指導に尻込みするなど、「人材育成に支障が生じる」という懸念があり、経営に悪影響があるとみているとのことです。
いくつかの記事で共通して、どんな行為がパワハラに当たるかの定義づけがテーマとなり、現場が混乱しないように、パワハラの判断基準や具体例を指針で明示する必要があるとしていました。

こんな話を聞いていて、私はいくつかの違和感を持って、少し考えてしまいました。
まず、パワハラの具体的な例や判断基準、定義などが必要とのことですが、これについては典型的な例は示せるでしょうが、白黒はっきりさせるような基準の明示ははっきり言って無理でしょう。それは行為を受けた側がいじめや嫌がらせと思えば、基本的にハラスメントにはあたるという、個人の主観によって違いがあるものだからです。

何らかの指針や基準は絶対に必要だと思いますが、セクハラやパワハラをはじめとした職場でのハラスメントの場合、行為や言動はまったく同じでも、誰にされたかで感じ方は違いますし、起こる場面やお互いの人間関係によって事例はまちまちですから、事実関係に基づいて個別に判断するしかありません。判例を積み重ねることで判断基準を作っていくようなことが必要です。

部下から上司に対する逆パワハラなど、問題の形は多様ですし、具体的ということには限界があるでしょう。定義や判断基準を明確に示すことが法制化の重要なテーマだと言われると、果たしてそうなのか、それが実現できるのかと考えてしまいます。
初めは多少包括的な基準でも、やむを得ないのではないでしょうか。

もう一つ、気になったのは、経営者側から法制化に後ろ向きな声がある点です。
上司が指示命令や指導がしづらくなって、人材育成や経営上の悪影響があるとのことで、確かに「パワハラと言われてしまうので、部下に強く言えない」という上司の話は聞きますが、私はそれと反対のことも気になっています。
それは、上司のパワハラ的な言動や行動を、部下が言わずに黙っていたり、やり過ごしたりしている例が、かなりたくさんあることです。私が現場を見ている中では、「上司の部下指導の悩み」と同じくらいに、「部下のパワハラ沈黙」があります。パワハラ対策の不足が、上司の育成に悪影響を及ぼしているといえます。

さらに、上司のパワハラ的な行動や言動を、部下もそれが「指導」だと思っていることがあります。スポーツ界で見られるパワハラには、このパターンが多いようですが、当事者同士が合意しているので、例えばひどい体罰などがあっても、「これは指導」「本人が納得しているからいい」となってしまいます。
このように、経営者側が言うような当事者任せの対策では、効果に疑問があります。

私の違和感の理由は、パワハラが根絶されることが最高の理想にもかかわらず、現場感の不足が感じられることであったり、一部の問題を取り上げた自分都合の利害主張であったり、本来目指すべきところから、少し離れた話が出ていることです。
まずは「パワハラ被害者を出さないため」という、原点に立ち返った議論がされることを望みます。


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