厚生労働省が公開した2018年版「過労死等防止対策白書」によれば、職場ストレスで精神疾患を発病したことによる「労災」と認定された件数が、過去最高になったという記事がありました。
ここで過労が目立つ職種として、「教職員」「医療」「IT産業」「自動車運転従事者」「外食産業」の5つが挙げられており、それぞれのストレス要因には、長時間労働や同僚・上司との人間関係だけでなく、「教職員」では“保護者やPTAへの対応”、「医療」と「自動車運転従事者」では、“患者や乗客からの暴力”など、仕事で接する相手から受けるものも多かったとのことでした。
それなりの理由がある相手もいるでしょうし、必ずしも文句を言われることばかりではないでしょうが、これはクレイマーのような問題が増えたということでもあり、苦情、威圧、暴言などを振りかざす相手が、以前に比べて増えているのかもしれません。
労災認定されたということは、応対した働き手が何かしらの疾患を発病し、その原因にクレイマー対応のようなものも含まれていることが公式に認められたということで、これはかなり大きな問題だと思います。
最近は、ほとんどの企業で何らかのメンタルヘルス対策が実施され、その環境は以前に比べて格段に進歩しています。疾患の早期発見や予防的な考え方もずいぶん浸透して、多くの会社でストレスチェックなどが行われています。
こういった動きが好ましいのは間違いありませんが、実際の現場を見ていると、メンタルヘルスの取り組み自体に、暖かさや優しさといった雰囲気を感じることは、実はそれほど多くはありません。
主管している人事部門をはじめ、その上司や同僚たちも、メンタルヘルスの対応はわりと事務的な仕組みの一つと捉えていて、その人が直ってほしい、戻ってきてほしいという思いを、あまり感じないのです。
メンタルダウンを起こした人を、仕組みに則って休職などの措置をとったり、予防的なチェックに引っかかった人に健康診断を義務付けたりしますが、ただそれを決まりごととして実行するだけで、その件数を減らそうとか、本質的な原因を断ち切ろうとか、そこまでの熱意はあまり見えません。
この調査では、上司や同僚以外の人間関係にも原因があるとして、そこにスポットを当てて問題視していますが、メンタルヘルスの問題について、私は職場内に原因があるものも、職場外に原因があるものも、周りの人たちの接し方に同じ問題があると思っています。
それはメンタルダウンになった当事者以外は、ほぼ他人事の様子があるということです。特にクレイマーに対しては、誰かが一緒に謝ったりすることはありますが、言われた社員を被害者として守ろうとする動きはまだまだ少なく、対応が本人任せにされていたり、逆にその人に原因があるのではないかと責めたりすることもあります。
メンタルダウンの原因を、その人の性格や資質に求める人は未だに数多くいて、どちらかといえば、そういう人材を厄介者扱いしていたり、ストレス耐性がない、我慢が足りないといった「今どきの若者論」で批判的なことを言う人がいます。
こういう人は、多くが「自分はメンタルダウンにはならない」という自信を持っていて、そのせいでどこか当事者意識に欠けています。ですから、身の回りにメンタルダウンの人がいても、心の奥ではどこか「自分には関係ないこと」と思っているのではないでしょうか。
メンタルダウンはすべてを予防することは難しいですが、クレイマー対応などが原因である場合は、それを一人に抱え込ませず、複数の人間で会社の意思として対応すれば解決できることです。
私はクレイマーに対しては、相手の主張が理不尽ならば、もっと毅然とした対応をすべきと思っていますが、この調査から見れば、それがメンタルダウンの防止にもつながります。
どんなにならない自信があっても、いつか自分に降りかかってくるかもしれないのがメンタルダウンです。
メンタルダウンを決して他人事にしない、当事者意識が必要です。
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