2019年10月7日月曜日

全体最適で考えるべき「事務処理コスト」


消費税が10%に上がり、それに関する話で私が何かと気になるのは、「軽減税率」の話です。
本来の目的は、「食品などの生活必需品にかける間接税は、低所得者の負担率が高くなる逆進性があるため、これを避けるための措置」です。その趣旨自体は理解できるところです。

ただ、いざ導入されてみると、軽減税率の対象か否かの切り分けが、あまりにも複雑でよくわかりません。イートインか持ち帰りかの区別が一番面倒なようですが、今日見たテレビでも、例えばオロナミンCは栄養ドリンクなので税率8%、リポビタンDは医薬部外品なので10%なのだそうです。こうなってしまうと、本来の目的が一体何なのかという感じになってしまいます。

もっとも、これはすでに軽減税率を導入している諸外国でも、同じような状況があるようで、ミネラルウォーターがぜいたく品扱いで高い税率だとか、コーヒーが朝だけ非課税だとか、ベーグルをカットして渡すかそのまま渡すかで税率が違うとか、ビスケットやマシュマロは非課税だが、チョコレートやアイスクリームはぜいたく品として課税されるとか、いかにも関係者の条件闘争の痕跡が見えたりします。

私が一番問題だと思うのは、この複雑な税率を切り分ける会計処理が、すべて納税する企業側に委ねられていることです。会社にとってはコストが増えるだけで、何もメリットがない余計な事務処理が増えることは、ただの無駄でしかありません。
税率アップに事務処理コストまで付加されて、実質的には上がった税率以上の負担を伴います。事務処理コストの増大は生産性低下につながりますが、一方では成長戦略で企業の生産性向上が言われているわけで、この矛盾する感じは何なのだろうかと思います。

この「事務処理コスト」は、企業内部の手続きの中でもしばしば問題になります。そのほとんどは、そもそもそれがなぜ必要かという目的を見失っていて、手続きや事務処理が形骸化したり慣例化したりしています。

ある会社であったことですが、出張に際して重複部分が多い二種類の書式があり、それぞれ提出義務がありましたが、「これがなぜ両方必要なのか」と尋ねると、「以前から提出してもらっているから」との答えでした。しかしそれでは答えになっていません。
書式が二つある理由を追いかけてみると、結局は単に提出先の部署が違うだけで、それぞれで情報共有すれば、書式が二つ必要ではありませんでした。どうもそれぞれの部署が、自分たちの都合だけで手続きを定めたらしく、それがそのまま検証されることなく、ずっと続いていただけのことでした。

こういった「無駄な事務処理コスト」の話は、効率化の意識が高い企業でも、結構な頻度で存在しています。それが起こってしまうきっかけになるのは、全体最適が考慮されないままで手続きが決められてしまうことで、そもそもの目的や必要性について、少し広めの視野での確認を怠っていることにあります。

今回の軽減税率も、会社の「事務処理コスト」が増えて生産性が下がり、巡り巡って納税額も下がって、増税の意味をなさなくなるような事態にならないとも限りません。
「事務処理コスト」を狭い視野で見ていると、痛い目を見ることが多々あります。全体最適で考えると、減らせる無駄はまだまだたくさんあるはずです。


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