2020年2月13日木曜日

転勤を知らない私が「転勤族」の話を聞いて思うこと


ある新聞で「“何のために働いてきたのか” 50代転勤族の嘆き」という記事がありました。

登場人物はIT会社の50代男性で、担当が変わる度に転勤させられ、引っ越しは15回になるそうです。結婚して子供が産まれた後も、断続的に10年超の単身赴任で、結婚生活の半分以上を占めているといいます。

「家族と一緒に異動先へ」という考えもありましたが、「親の都合で子供も連れ回したくない」と単身赴任を選びました。
赴任当初は「家族と一緒に過ごしてつながりを保っていたい」と頻繁に自宅へ帰っていたそうですが、二重の生活費や交通費などの金銭的な問題もあり、その回数は徐々に減っていったそうです。
たまに帰っても家族との会話は弾まず、妻とのやり取りも途絶えがちになり、家族との間に溝を感じて孤立感があり、家族の絆の危機を感じているとのことです。

子供の成長につれて家族同伴はさらに難しくなり、転職には収入減の心配で踏み切れません。
「家族のため、生活のためと単身赴任を受け入れてきて、その結果の今のさみしさでは、何のために働いてきたのか、分からなくなる」と締めくくられていました。

この話を聞いて、私は「大変」「かわいそう」と思います。私にとっては新入社員の頃から、一番避けたいと思っていた働き方だからです。「自分の意思にかかわらず、仕事のために住居を変わる」というのはとにかく嫌でした。
それを避けるために、就職先は「転勤がない会社」となり、それはほぼイコールで中小企業となります。もしかすると自分の可能性を狭める選択だったかもしれませんが、それでもそこからいろいろな経験をしてきて、その結果として今があります。

転勤がある会社へ行く人は、そこまで嫌という感情はないのかもしれません。逆に海外勤務や地方勤務を希望する人もいますし、それが良い経験になった話も聞きます。
その一方、この記事と同じように、単身赴任が長くなって家族とのつながりが途絶えがちという話も聞きます。やはり「家庭を持ってから」「本人が希望しない転勤」の負担は大きいと思います。

そんな人たちに、あえて転勤のメリットを聞くと、「人脈形成」や「人生経験」といったものが出てきましたが、これは主観的であいまいなものです。「出世のため」というのもありましたが、転勤したから出世が保証されるわけではないので、これも本人の思い込みに近いところがあるでしょう。
しいて言えば、終身雇用の交換条件として、転勤を受け入れていれば、その会社で長く働くことができるということでした。

しかし、この記事のようなレベルになると、会社からの配慮があまりにも少なく、本人の協力的な姿勢に会社が甘えているところがあります。
結果的に本人のデメリットがどんどん増していき、逆に会社は人員配置上の裁量というメリットをずっと持ち続けていたわけです。転勤は会社側に大きな裁量が認められているので、こういうことが往々にして起こってしまいます。

私が転勤を嫌と思った理由は、自分にとってメリットと思うことがなかったからです。
「出世」は特に意識せず、定年まで勤めようとも思っておらず、「人脈形成」や「人生経験」は、別に転勤しなくても積むことができます。地方や海外での勤務希望もありません。
そうなると、転勤のメリットは会社にあるだけで、そのやり方によっては自分が翻弄されます。そんないびつな会社との関係が嫌でした。

最近、こんな私と同じく「転勤はしたくない」という人が増えているといいます。大きな理由はプライベートを重視する傾向と、「その会社に長く」「出世」など、働き手にとってのメリットが薄れていることです。
会社側も地域限定や勤務地限定制度の導入や、本人希望への配慮や事前の相談など、対応が大きく変わってきています。
その一方で、相変わらず「転勤族」がたくさんいる職場もあります。

転勤から学べることはたくさんあるでしょうが、その学びが転勤でしか得られないかというと、必ずしもそうではありません。
先のことはわかりませんが、私は「転勤族」という言葉が、徐々に死語に近づいていくと思っています。
やはり「どこに住むか」はプライベートの基本です。「転勤」は双方合意で慎重に進めることが求められる時代になっています。


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