退職者対策は、今はどこの会社でも意識していることです。思い通りの人材をすぐに採用できる環境ではありませんから、今いる人材をいかに辞めさせずに働いてもらうかは、企業にとって重要なことです。
退職者対策については、私も過去からいろいろ相談を受けてきた課題です。ただ、そこでできることは、社員の望んでいることを少しずつでも実現し、給料、福利厚生、ほかの労働条件や、企業風土、人間関係ほかを含めた職場環境を、すべてにおいて少しずつでも向上させていくしかありません。
「辞める理由を無くすのではなく、残る理由を増やすこと」などとも伝えていますが、何をやっても100%万全ということはありません。日本一の有名優良大企業でも辞めていく人は存在します。
そんな中では退職希望者に対する引き留め工作も、多くの企業でおこなわれます。上司からそのまた上の上司、担当部長から担当役員、最後は社長まで、順番に同じような話をして、とにかく時間をかけさせて引き留めようという会社があります。面倒さであきらめさせようというつもりかもしれませんが、一度辞める決意をした人の気持ちはそう簡単には変わりません。
中には恫喝や脅しまがいのやり取りを含んでいる場合や、逆にそんなトラブルから解放されるために「退職代行業者」なるものも存在しています。それでビジネスが成り立っているわけですから、退職を翻意させるための過度なやり取りは、あちこちで起こっているということでしょう。
ただ、最近はこの「辞めさせない」という考え方を大きく転換する企業が出始めています。もともとは一部の会社だけに見られていた「独立歓迎」「出戻り歓迎」といったものが、今は多くの会社で当たり前のようになってきています。
もちろん「独立」には最近盛んになっている「副業」と同様に、競業避止に関する問題がありますし、「出戻り」については必ずしも歓迎できる人ばかりではありません。その人の能力や性格、以前退職した際の経緯などによっては、受け入れられない人材もいるでしょう。
しかし、そうは言っても、優秀な人材ほど自社だけに縛りつけておくことが難しい世の中になってきました。それなら「退職させない」ということよりも、「退職したとしてもその後も何らかの形でつながりが持てる関係」を多くの企業が考え始めています。
「独立」した社員と業務委託で仕事を継続したり、副業や業務委託を前提にした仕事情報を発信して社外人材を募ったり、希望する社員の個人事業主化を支援したり、辞めた社員に連絡を取り続けて出戻り可能なことを打診し続けたり、その内容は様々ですが、共通しているのは社員として囲って自社の業務だけをやらせるのではなく、高い能力があって余力がある人には、社内外の人材を問わず仕事をしてもらおうという考え方です。
そうなると、何らかの理由で会社から離れていった人は、力量や人となりがわかっているという点からも、さらに活かしやすい人材と見ることができます。請負でも副業でも戻ってくれても良く、そのためにはその人が辞めた後でも、引き続き関係を切らずにつないでおくことが必要になります。
そこでは、嫌な辞め方、許せない辞め方をした退職者とは会社が付き合えないのと同じく、不誠実な会社、社員を粗末にする会社では、付き合いを続けてくれる退職者は絶対にいません。会社として良くない行動の中には、退職時の恫喝や過度な引き留めといったことも当然含まれてきます。
今は「辞めさせない」ことを考えるよりも、「辞めてもつながれる関係」を考える方が、メリットとなる点が多くなってきています。少なくとも退職者をひとまとめに「裏切り者」「不適合者」のように扱って縁を切るのは、もう時代にそぐわなくなってきています。
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