2016年8月22日月曜日

「知らなかった方が悪いのか?」、過剰なPCサポート契約の件で思ったこと



ある企業が、高齢の独居老人に対して、どうみても必要以上と思える過剰なパソコンのサポートサービスを契約し、さらにそれを知った家族が解約を申し出たところ、高額な解約料を請求されたということがツイッター上で拡散され、多くの批判が集まっています。
会社側は謝罪したり、改善策を発表したりしていますが、ごく当たり前の内容を再周知しているようなところもあり、今後本気で対応していくのかは何とも言えません。

ただ、非常識な手法で契約に持ち込む行為への倫理的な問題はあるにしても、契約自体が無効になるような違法性まではないようで、そうなると結局は「内容を知らずに契約した方が悪い」ということにされてしまうように思われます。

私はこの「知らない方が悪い」という言葉で、思い出すことがあります。
ある会社に新たな評価制度を導入した時のことですが、新しい評価結果が反映された最初の賞与支給の際に、ある一人の部長から苦情が上がってきました。説明には十分に時間をかけたにもかかわらず、「こんなことになるとは思わなかった」と言います。
新しい評価制度の内容をきちんと把握しておらず、要は「知らなかった」ということです。

好ましいことではありませんが、どうもこの部長は、これまでも実際の支給金額を逆算しながら評価をつけていたようで、制度改訂でその基準が変わっても「どうせ大して変わらないだろう」と、改訂内容をあまり真面目に確認しようとはしていなかったようです。
評価結果が実際の金額に換算されて支給され、その後部下たちから確認の問い合わせが何件かあったらしく、そこから「想定していた結果と違う」「こんなことでは困る」と言ってきたということでした。

人事部相手にずいぶん苦情を言ってきたようですが、それほどの不公平があるとは見られなかったこともあり、最後は社長から直々に、「部長の立場で知らないなどと言う方が悪い」と一喝されて、その時の話は終わりました。ただ、この部長はその後、「責任感がない」「いい加減過ぎる」などと批判され、ずいぶん評判を落としたようでした。

これはいくつもの会社で経験したことですが、事前にどんなに詳細な資料を作っても、どんなに細かく何度も説明をしても、当事者意識がないためか興味を示そうとせず、実際に自分の身に降りかかってきた時に初めて、質問や意見、批判が出てくるということがあります。

実はそういう状況を想定した上で導入プロセスを考えることもあり、あえて「知らなかったでは損をする」という状況を作ることもあります。必要な資料はすべて開示して見られるようにし、質問窓口を設け、その気になれば確認できる環境を作った上で、あとの情報収集は本人たちに任せるというようなことです。
「知らなかったでは損をする」という経験を一度でもすると、それ以降は会社の動きに無関心のままでいる頻度が減り、少なくとも後から「知らなかった」とは言わなくなります。

このような社内周知と今回話題の過剰なサポート契約とでは、どちらも「知らなかった方が悪い」という点では同じような部分がありますが、双方の間には決定的な違いがあります。
前者のような社内周知では、いかにきちんと理解をしてもらうかという目的で、当事者意識を持たせるために「知らなかった方が悪い」という状況を作っていますが、後者の過剰契約では、「知らなかった方が悪い」という状況に持ち込むために、あえてきちんと理解させようとはしていません。
また、前者の場合は、身に降りかかった後からやり直しがききますが、後者では、一度契約してしまうとやり直しがきかないか、もしくは難しくなります。(意図的にやり直しをさせないようにしているとも見えます)

こうやって考えていると、過剰なサポート契約の話は、思った以上に悪質な気がしてきています。
知らせる気がなかったのに「知らなかった方が悪い」は、通用しないと思います。


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