2016年8月5日金曜日

「働き方改革」が「働かせ方改革」になってしまわないように



政府は経済政策の一環として、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現、非正規労働の一掃などを目的とした「働き方改革」の具体的な実行計画を、年度内を目途に取りまとめると発表しました。
この具体的な実行計画に基づいて、スピード感をもって実行していくということです。

この取り組みの目的や、具体的に進めていこうという考え方自体に、私は全く異論ありません。生産性が高まって、過度な格差や不公平が是正されていくのであれば、困る人は誰もいないと思います。
ただ私は、この「働き方改革」が、経営側の論理に偏り過ぎた「働かせ方改革」になってしまわないかということに、少しの懸念を持っています。

お互いにどんなに歩み寄ったとしても、やはり雇う側、働かせる側の経営者と、働く側の社員や労働者の間には、その立場の違いからどうしても利益相反になる部分は残ります。

例えば「長時間労働」の問題であれば、今の職場環境の中では働く時間が短くなるほど残業代という報酬は減っていきます。
効率化がなかなか進みづらい要因の一つとされて、それが労働時間に応じた賃金支払いの強制を緩和しようという「ホワイトカラーエグゼンプション」などの議論にもつながっている訳ですが、その一方で、残業代不払いの問題が今の法律の下でも相当に数多く起こっていることを考えれば、法規制の緩和によって、労働時間はそのままで賃金だけ支払われなくなるという懸念が出ます。
企業の現場を見ていて、ムダな残業がたくさんあるのは間違いないことですが、これを乱暴に解決しようとしてしまうと、後々に大きな禍根を残すような気がします。

「同一労働同一賃金」の問題も、一見すれば公平感が増す気がしますが、欧米のような職務主義とは異なる労働慣行を取ってきた日本で、「何が同一労働か」を定義することはかなり困難な作業です。
また、今の議論は正社員と非正規社員の賃金格差の問題ばかりが取り上げられ、単純にこの格差だけを埋めようとすれば、正社員の給与は引き下げ方向になる可能性があります。

何かと悪い意味で槍玉にあがる「非正規労働」についても、不安定で低賃金だからこそ問題な訳で、逆に不安定さのリスクに応じた高賃金であったとすれば、滅私奉公を強要されない、柔軟で自由な働き方という捉え方になる可能性もあります。ワークスタイル多様化の一つとして考えることができます。

このように、それぞれの課題には両面があり、どの地点にバランスを求めていくかというスタンスによって、その結果は大きく違ってきます。
ここで懸念するのは、やはり声が大きくて政治力もある経営者側の意見が強く出過ぎてしまわないかということです。

今回、「働き方改革」という言い方をしていますが、その主語はあくまで働く側の社員、労働者といった人たちであるはずです。もしも会社側、経営者側が主語になると、これは「働かせ方改革」ということになってしまいます。

私は両者がそこそこ納得できる、絶妙なバランスというのが必ずあると思っています。良い形の実行計画が出されることを望んでいます。

0 件のコメント:

コメントを投稿