2018年7月2日月曜日

「残業代を払わずに済む」だけでいいのか


「残業時間の上限規制」、正社員と非正規雇用の不合理な待遇差を解消する「同一労働同一賃金」、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を柱とした「働き方改革関連法」が、先日の国会で可決、成立しました。

特に「高度プロフェッショナル制度」については、長時間労働を助長する懸念があるとしての反対意見、また残業時間の上限規制もどのくらいの時間数に設定するかという課題など、やはり労働時間管理の問題は、議論も多いですし慎重さも必要な部分だと思います。

私自身は、この「働き方改革」については必要なことだと思っていますし、今の労働慣行で改革を要するところはたくさんあり、その目指すところはよくわかります。そして、これから実際に法律が施行され、その後どんな状況になるかによって、様々な見直しが必要になるものだとも思っています。

残業代の話は特に議論になるところですが、「時間でなく成果だ」という話は、総論としては理解できます。時間稼ぎの残業代稼ぎと思える人は、どこの会社を見ていても確かに存在しています。
しかしその一方、働かせているのに残業代を払わない会社も、同じように多数あります。そのすべてが働く人の能力不足で割高な残業代となっていることばかりではありません。期限や難易度、その他仕事量が労働時間と見合っていないことはたくさんあります。
これらはすべてケースバイケースで、どちらも混在して起こっているのが実態です。

そんな中で気になるのは、経営者団体である経団連から、さらに労働時間の規制緩和が進むことを期待する声があるとの報道です。今回の法改正で裁量労働制の適用拡大が見送られたことを念頭に置いてのことのようですが、この発言を聞くと「ただ残業代を払わなくて済むようになること」が望ましいと考えているかのように思えてしまうからです。

私はこの問題に関しては、実際に法律を運用してみて、その状況によって今後の方向性を見直さなければならないと思っています。
今回の法改正の議論の過程で、懸念が出されていた長時間労働の助長などは、実際に起こる可能性があります。経営者が「働かせても支払わなくてよい」ととらえて、その都合の良い解釈で運用されることも考えられます。

もしそうなれば、今度は労働者保護の観点で、今回成立した法律の内容を、規制強化の方向で見直さなければなりません。
労使関係や雇用環境のことを真面目に考えようとするならば、ただ規制緩和の方向に決まっている訳ではありませんが、それを今の段階から「さらなる規制緩和を期待」という話が出るということは、「残業代の支払い義務がなくなれば人件費が減らせる」など、「人件費の有効活用という名のコストカット」だけを意識しているように思えてなりません。

このように、せっかくの「働き方改革」が、労使の条件闘争のように扱われているのであれば、その本質からはどんどん外れていってしまいます。
「時間当たりの賃金」という考え方にも、それなりの理はあります。そのこともきちんと理解した上で、状況を見据えて考え続けなければならないと強く思います。


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