ある新聞記事で、一人の高校生投手が通称「トミー・ジョン手術」という「ひじの靱帯再建手術」を受けたことに関する話題がありました。
「もっと早く痛いと言えばよかった」とあります。小学校高学年の頃から、痛みを感じていたとのことです。
この記事で紹介されている専門医がいる病院には、野球関連の新規患者が年間800人ほど訪れ、そのうちの約4分の3が高校生以下だそうです。「高校生で痛める選手のほとんどは、小・中学時代にけがの経験があり、それを繰り返している」といいます。
特に成長期は骨がまだ軟らかく、痛めやすいそうで、「痛めるほどやるべきではないし、痛くなったらすぐに休むべき。休めば回復することも多い」とおっしゃっています。
この専門医の先生は、大リーガーが多数輩出するドミニカ共和国で、野球をする約140人の小・中学生を対象に肩ひじの検診を行ったそうですが、日本では3~8%の割合で障害が見つかるのに、ドミニカには一人もいなかったのだそうです。
ドミニカでは守備練習でも球数に気をつかっていて、子どもにけがをさせた指導者はクビになるそうで、けが予防に対する意識の高さを感じたとのことでした。
指導者には、子どもが「痛い」と言える空気を作ることと、そもそも「痛い」という状態にさせないこと、さらに言い出せない生徒の異変を見逃さない役割が求められると言っています。
この話を聞いて真っ先に思ったのは、企業での過労死やメンタルダウンに関することとの共通点です。
子どもを部下や社員に、指導者を上司や会社に置き換えると、ほとんど同じようなニュアンスの話になります。
追い込まれても、一人で抱えて言い出せず、周りも自分と同じで言い出せる雰囲気でなく、相談できる相手もおらず、不幸にして亡くなってから初めて公になる、心の病がなかなか回復できないほど悪化しているというようなことです。
会社では相談窓口を設置したり、予防のためにストレステストを定期的に実施したり、それなりの対策はしていますし、言い出しやすい雰囲気づくりも最近はずいぶん配慮されるようになりましたが、最終的にはその現場の責任者、マネージャーに委ねるしかない部分も多く、その人の資質によってはなかなかうまくいかないことがあります。
「自分が平気なことは他人も同じ」と思ってしまっていることが多く、良くない状態の社員がいても気がつかず、ほとんど気にも留めていなかったということを未だに目にします。
これを防ぐ方法はいろいろ考えられてきましたが、今回の記事を見て、私はドミニカの野球のように「けがをさせた指導者はクビになる」というような厳しさも必要かもしれないと思いました。
野球の球数調整は仕事量の調整にあたりますし、投球フォームなどの変化から、けがを見抜く指導者がいますから、会社の仕事でも同じように異変を見つけることはできるはずです。
部下の体調管理も管理者の明確な役割の一つとなれば、部下観察や業務量調整は必須になります。本人が「大丈夫」「休みたくない」といっても、強制的に休ませる必要もあるでしょう。そういうことまで含めて、マネジメントになります。
「そんなのは理想論」「厳しすぎ」「自分の権限では無理」など、いろいろな意見はあるでしょうが、過労死やメンタルダウンに、現場の責任があることは間違いありません。ただ、その責任を現場のマネージャーが問われたという話は、亡くなる人でも出ない限りはあまり耳にしません。
罰則を厳しくすることが本意ではありませんが、マネージャーという役割は、それくらい責任をもって部下の体調管理にも気を配らなければならないということを、あらためて認識した一件でした。
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