2019年8月15日木曜日

「退職代行サービス」を繁盛させてしまう会社側の責任


「退職代行サービス」の話を、いろいろな企業の人事担当からときどき聞くようになりました。
「うちの会社にもついに来た」などという話を最近聞きましたが、実際にその需要は急増しているようです。手数料は5万円ほど、利用者は20代男性が多いようですが、ある記事によれば、「最近はリピーターが目立ってきている」といいます。
企業側が退職に難色を示して、様々な引き留めをするケースが増えているのか、それとも社員側が「直接言うのが面倒」などの理由で、業者に依頼するハードルが低くなっているのか、はっきりした状況はつかみきれていないようです。

この「退職代行サービス」の存在は、会社の立場からすると、あまりうれしいものではありません。やはり直接理由は聞きたいし、よほどの問題社員でもない限り、引き留め的な話はしたいでしょう。
また、もし私自身が会社を辞めるときに、このサービスを使うかといえば、絶対に使うことはありません。辞めるとなれば、やはり円満退職にしたいので、自分の口から伝えるべきだと思いますし、仮にどんなに恫喝されても、強い引き留めにあっても、自分の意思を通す自信があるからです。もちろん、どんな辞め方でも、最終的には本人の意思が優先される法的な裏付けも知っています。

ただ、こういうサービスに頼らなければ、簡単には辞められないケースがあるのは確かです。
パワハラにあって、そんな上司とはもう二度と話したくないなど、社員が会社への信頼を失っている場合や、心身の調子を崩していて自分では対処できないような、やむを得ない事情があります。
そうでなくても、代わるがわるいろんな人から同じような引き留めを受けたり、退職届がいつまでも受理されないような時間稼ぎにあったり、次の転職先が決まっていればなおさら、会社側のそういう対応は本当に面倒です。第三者を通して早く処理できれば、それに越したことはありません。

「退職代行サービス」は、私は会社と社員の信頼関係があれば、不要なサービスだと思っています。退職の際には、会社は「残念だ」と言いながらも、社員のステップアップを願って快く送り出し、その後も機会があればビジネスで付き合えるような関係ならば、このサービスを使う人はいないでしょう。

逆に「退職は裏切り行為」「自社の仕事が困る」など、会社が一方的な姿勢で引き留めをしたり、手間と時間をかけてあきらめさせようとしたりするのは、不誠実な嫌がらせでしかありません。
「退職者を出すと上司がペナルティーを受ける」という会社がありますが、こういうことが過度の引き留めを助長して、「退職代行サービス」がどんどん利用される一因となっています。
「自分の退職すら人任せなのは非常識」などと批判する人がいますが、必ずしもそうとは言えないケースもずいぶんあります。

退職届まで出してきた社員が、引き留めによってそれを撤回したケースは、私の長い人事経験の中でも、ほんの数人しかいません。届けを書くほどの決意をした段階でいくら引き留めても、ほぼ意味がないということです。
その反面、一度辞めても出戻ってきた社員は、実は結構大勢います。社外の空気を吸ってみて、初めてわかることがたくさんあるそうです。
退職の意思は本人が決めることであり、その意思を変えさせようと強引に振る舞うよりも、それを受け入れて良い関係のまま見守る方が、会社にとってはよほどメリットがあります。

「退職代行サービス」について、理想はいつか役目を終えて消滅していくことですが、今のところ、それは当分難しそうだと思っています。


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