2019年8月8日木曜日

「内定辞退率予測」を使われる側の気持ち


最近こんな話題がありました。
就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、閲覧履歴をもとに就活生の内定辞退率を予測して企業に販売するサービスについて、本人の同意を得ずに販売していたということで、個人情報保護法の違反ということで、サービス提供を中止したとのことでした。
同じく就活サイトの「マイナビ」でも、同じような内定辞退率を予測するサービスを提供していますが、こちらは個人が特定できない一部の情報のみを使ったサービスのため、問題はないとのことでした。

私が直接の採用担当をしていた時にはなかったサービスですが、その当時が今のように内定辞退が多い時代で、こんなサービスあったとすれば、たぶん利用したいと思ったでしょう。

辞退の確率が高いがぜひ採用したい人への働きかけを強めたり、辞退率が低い人を志望度が高い人と位置付けて、優先的に内定を出したり、このサービスには多くの使い道が考えられます。
採用予定数を確保することへの圧力が強い企業はたくさんありますが、そういう企業であればあるほど、こういったサービスには魅力を感じるはずです。

ただ、ここでの問題は、このサービスの学生側へのメリットはほとんどなく、ニーズは100%企業側からの一方的なものだということです。
よく考えなければならないのは、就職活動なりの特性です。
受験のように偏差値で学校の難易度を判断することはできないので、学生にとって明確なすべり止めのような企業は存在せず、高望みでもそうでなくても、学生は自分の興味がある企業に応募をします。そういう中で、企業に対する志望度というのは、就職活動をしている中で常に揺れ動きます。

そうなれば、例えばある時点で自分の第一志望だった企業が不採用になると、急に視点が変わって「それなら別のこの会社に行きたいかも」となります。選考の過程でいろいろなこと体験して、良いと思っていた企業に幻滅したり、逆に冷やかし半分だった企業に魅力を感じたりします。

そんな揺れ動きを、AIツールで「この人の内定辞退率は〇%」と表現されたとして、その数字を企業がどうとらえるのかは応募する側からはわかりませんし、そもそもAI判定された情報が、本当の自分の気持ちに合致しているのかもわかりません。
「降水確率が何%だと傘を持っていくか」に近い話で、判断基準は企業によってまちまちで、その判断基準が公になることはありません。それでは判定される側の納得感はありません。

もう一つは応募者の気持ちの問題で、学生個人の「内定辞退率」を言われるのは、自分の心の中をのぞき見されるような気持ち悪さがあります。
例えば、恋愛相手から知らないうちに身辺調査をされていて、そこで別の人と天秤にかけられていたような、そんな気分に近いでしょう。
もちろん就職活動には他人との競争という部分はあるので、他者と比較されることは仕方ないですが、自分の選択権まで見透かされて、選考材料にされてしまうことには、何となくの違和感があります。

最近の人事の現場では、テクノロジーとしてのAI活用の話がよく出てきます。
採用活動の中では、エントリーシートの初期判定の場面ではすでに活用されていますし、面接での想定質問の提示や採用判定の参考資料など、活用場面は増えていて、今後もその範囲が広がっていくことは確かでしょう。
他にも仕事の適性を見た配置や、個々の教育計画などにも活かされつつあります。

そういう中で配慮が必要なのは、本人と会社の両者ともに、メリットがある情報活用かどうかということです。
本人も認識していない業務適性をAIから指摘されれば、それが本人のメリットになることはあるでしょうし、こういう上司と相性がいい、こんな勉強が役に立つといった情報は、同じく両者にメリットがあります。
しかし、今回の「内定辞退率」の判定ツールは、会社側しかメリットがありません。この点が様々な方面から批判される要因でしょう。

今後、テクノロジーの進歩とともに、AI活用による様々な予測ツールが出てくるはずで、その精度もどんどん上がっていきます。
しかし、それを使うに当たっては、使われる側の感情や、双方のメリットがあるかどうかが重要になってくると思われます。今まで以上にプライバシーやモラルへの意識が重要になります。
今回の話は、法律的な問題とともに、ちょっとデリカシーが足りなかったと思います。

来年以降は、たぶん個人情報使用を承諾の文言などを変えるだけで、企業側へのサービス提供が再開されるでしょうが、提供される情報の使い方は、今まで以上に神経を使って対応しなければなりません。
少なくとも、就活のような場面で一方だけを利する情報提供は、もっと考えなければならないと思います。


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