人事制度を始めとした会社の仕組みづくりの中で、会社によって程度の違いはありますが、ここからの話は実はよくあることです。
ある会社から「人事制度を見直したい」との依頼があり、現状の制度を確認すると、簡単な等級制度と、金額が少しずつ上がりながらエンドレスでつながっている単純号俸制と言われる給与テーブルの仕組みでした。
運用実態を見ると、等級と給与額は必ずしも相関しておらず、等級は上でも給料は下というような関係がたくさんあります。評価の仕組みは特になく、等級の昇格などは入社してからの年次とその人の年齢によって、社長と幹部社員の判断で決めています。明示されている判断基準はなく、「○年目だからそろそろ上げておこうか」という感じのようです。
この現状に対する社員からの反応は、「昇格しても給料は上がらない」「肩書がついても仕事内容は別に変わらない」「やってもやらなくても同じ」といったものです。この原因としていえるのは、等級、役割や肩書、仕事内容、給与額がそれぞれアンバランスな関係になってしまっていることです。
「制度化したい」というのがこういった問題の解消が目的であれば、その方法としては昇格基準を明確にするとか、役割と給与額の関係を整理するといったことになりますが、その提案に対する幹部社員たちの反応は「それはできない」「やりたくない」というものでした。
昇格に伴って一気に昇給するようなことは経営的にやりたくない、だから昇格と昇給額の判断は、自分たちがその都度行いたいとのことです。臨機応変に判断するのは経営上必要なことであり、今のやり方は問題ではなく逆に良いことだとも言います。
組織の柔軟な運営方法について、私はまったく否定するものではありませんが、一方「制度化」というのはルールや基準、手順を取り決めて、属人的でない一律の運用をすることです。状況によってその都度判断するというのは仕組みや制度ではありません。その組織に合った制度と裁量のバランスは必要ですが、「制度化する」「システム化する」ということは、少なくともそれまで裁量で決めていたことの余地を減らす方向になるのは間違いありません。
しかし、そこで経営者や幹部の人たちが、「自分たちの裁量権は渡さない」となってしまうと、制度や仕組みの話はそこで終わってしまいます。
システム化や制度化の検討の中で、特に経営者や幹部の人たちが、「全体に向けては制度や仕組みを取り決めたい」「でも自分たちの裁量は維持したい」という話は結構よく見かけます。
しかしそれは、自分たちの既得権を維持するための抵抗でしかなく、組織改革においては最も好ましくないことです。上層部が改革を邪魔していることになってしまいます。
「制度化」と「裁量の維持」を同時にいうのは矛盾があり、少なくとも誰かが自分の裁量を手放さなければ、制度や仕組みによる組織の効率化や公正な運営を進めるような改革はできません。
繰り返しますが、こんな形で改革が進まない話は、実はとても多いことです。
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