2021年5月24日月曜日

採用活動での気遣いの逆効果

ある会社で数年前にあった話ですが、主に新卒入社の早期離職が直近で増えているとのことでした。

当時の売り手市場といった状況はありましたが、それまでは比較的定着率の高い会社だったので、その理由をとても気にしていました。

 

私もいろいろ話を聞いていて、その中で気づいたことや気になったことがいくつかありました。一番は「会社の風土と必ずしも相性が良くない人材を集めていないか」ということで、主に採用活動に関することです。

 

もう少し突っ込んで聞くと、少し前から採用活動を進める際の考え方を、「応募者に対してよりフレンドリーに」という形にあらためたそうです。主な目的は、昨今の厳しい採用環境の中で応募者数を増やすことと、今まで以上に定着率を高めることでした。

具体的には自社への応募者に対して、「どんなことでもできるだけ相手に親身に寄り添うこと」だといいます。スケジュール調整をはじめとした先方からの希望にはできるだけ合わせ、それ以外でもいろいろ先回りして世話を焼くそうです。それは内定してから入社後の集合研修まで、人事担当がかかわっている間はずっと継続されるとのことです。

 

私がその当時に入社内定した新入社員を見て、その全員に共通した印象は「真面目で素直そうだが、活発さや行動力はあまりなく受け身の姿勢が強い」というものでした。

この会社がもともと持っている企業風土は、わりと専門性が高い業務内容ということもあり、自ら学ぶ姿勢であったり、自分発信の行動であったり、わりと自律を強く求めているところがありました。新入社員たちの印象は、それとはあまり相性が良いとは思えません。

 

私からこの状況を見ると、原因はやはり採用活動の進め方にあります。手取り足取りで世話を焼いてくれることが心地よいと感じる人には、受け身で依存的な資質の人が多く含まれがちで、結果的には自分たちの会社に合わないタイプの人材を集める形になってしまっている感じがしました。

 

実際に、新入社員がそれぞれの現場に配属されると、私から見れば育成意識はとても高い部類の会社です。もちろんいろいろ指導はされますし、接し方が厳しすぎたり放置されたりすることはありません。ただ、それまでのように手取り足取り、身の回りのことまで先回りして世話を焼いてくれることはありません。その段階で過保護な状態を好んで入社した新入社員は、会社の通常モードに接してそれまでとの違いに驚いてしまい、「ついていけない」と辞めてしまったケースが多かったということでした。

人事担当は当初の目的に沿って、ただ親身に気を遣って世話を焼いていたわけですが、その気遣いが裏目に出てしまっていました。

 

採用活動では、自社の良いところも良くないところも含めて理解してもらったうえで入社してもらうことが、その後の定着にはとても重要になります。この会社では応募者のことを思ってしていた気遣いが、現実とのギャップを大きくしてしまい、それが定着率に良くない影響を与えることになっていました。意図したことではありませんが、結果的には「釣った魚に餌はやらない」と同じようなことになり、「思っていたのと違う」となってしまっていました。

 

その後は「自社のことをいかに正確に、さらに前向きに理解してもらうか」ということを主眼として採用に取り組むようになり、早期離職の問題はずいぶん改善されていきました。

 

この話では誰一人として悪気はありませんでしたが、そんな善意の気遣いでも逆効果を生んでしまうことがあります。特に採用活動では「ありのまま」を理解してもらうことが重要です。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿