企業の組織改革に取り組む際に、よくキーワードとして用いられるのが「自律」「自己管理」という言葉です。それぞれの社員が自分の行動を考えて、適切なものを選択して実践できれば、組織にとってはそれが最も効率的であり、所属する者にとっても好ましい風土です。自己決定したことであれば、なおさら前向きに取り組むことができます。
理想的な形ではありますが、現実にはそう簡単ではありません。決められる権限がない、決めるにあたっての情報が足りない、そもそも判断できる経験と能力がないなど事情は様々です。特に権限の問題は本人だけではどうしようもなく、情報についても立場によって格差のあることが多く、こちらも本人の力だけではどうしようもありません。
また「自律」や「自己管理」には人間の甘えという問題もあります。安易な方向に流れる、ついサボる、手抜きや先送り、依存や他責、その他不作為といったことです。
これらを防ぐために「命令」「規則」といったもので強制的に縛る方法があります。ただこちらもうまくいくことばかりではありません。「命令」や「規則」の必要性を納得していないと、人は必ず抜け道や手抜きの方法を考え始めます。仕組みの運用が、時間が経つにつれてルーズになったり、いつの間にか消滅したりすることは、どの会社にも見られることです。
最近は「自律」による組織運営が正しくて、「強制」は誤りという感覚がありますが、この両方がなければ組織が回らないのが実際のところです。「強制」のみではただのブラック企業ですが、「自律」のみでうまくいくことも極めてまれです。全社員の意識がよほど高くなければ難しく、少なくとも私はまだ実際に見たことがありません。「自律」の割合をいかに高めるかは大事ですが、「強制」も状況に応じて必要な手段です。
「自律」であっても、「強制」であっても、これらを機能させようとすれば、どちらにも絶対に必要なのが、周りからの何らかの「支援」です。
例えば、自身のダイエットや健康管理というのは、「自律」や「自己管理」の要素が強いものですが、自分だけではなかなかうまくいかないことが多いものです。家族、医師、トレーナーといった第三者がかかわってくれて、助言や指導、アドバイス、励まし、叱責などをしてくれることで、本人の甘えやサボりの歯止めになり、挫折せずに続けることができます。
「強制」は基本的に誰からも嫌われることですが、その必要性を納得できれば受け入れることができます。この時、他人からの説明や説得、その他の働きかけがあった方が、より受け入れやすいでしょう。
自己管理能力が非常に高いはずの超一流のアスリートでも、それが個人競技だったとしても、今は選手が自分一人だけでトレーニングをし続けることはほとんどありません。コーチと一緒、他の選手と一緒、誰かの門下生など、何らかのチームで活動していることがほとんどです。その理由は周りからの「支援」がある方が、より自分のレベルアップにつながりやすいからです。
単に技術的指導を受けたい、ノウハウを得たいということだけでなく、甘えや過剰な負荷の防止、メンタル面でのサポート、その他自分以外の客観的な視点があることによる問題発見や対応ができます。
「強制」という部分でも、例えばルールを守るということでは、誰も見ていなければついルーズになりがちなのは仕方ありません。ここで周りから視線やチェック、確認、その他監視があるかどうかは重要です。「見つからずに済んだ」「何も言われなかった」ということが続くと、ルールはどんどん守られなくなっていきます。やはり周りからの関与をはじめとした「支援」が必要です。
こうやって見ていると、人間というのは「群れで生活する生き物」ということをあらためて思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿