2022年5月2日月曜日

「適切な余力」と「無駄」

生活用品企画、製造、販売のアイリスオーヤマで、あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめているという経営手法に関する記事がありました。

 

経営上の一般的な常識では、設備稼働率は高いほどよく、そのためには持っている資産を無駄なく目いっぱい使うことが良しとされますが、アイリスオーヤマでは「効率」よりも「ビジネスチャンス」「瞬発力」を優先する考え方で、何かで需要の急増があったときに、それに瞬時に対応できる体制とするために、「稼働率7割以下」というルールにしているとのことです。

震災後のLED照明、コロナ禍でのマスクは、それぞれ需要拡大に対応した急速な大量生産を行ったことでシェアを獲得しています。

 

例えば、受注から出荷までの時間を極限まで短縮する「ジャスト・イン・タイム」では、「在庫は悪」として、設備も倉庫も作業人員もギリギリにして効率を上げようとしますが、需要が安定しているときはそれで良くても、今のような不安定な時代に起こりがちな需要変動には弱いと言っています。

このような「適切な余力」を持つ経営に追随する企業も、少しずつ増えているといいます。

 

特に中小企業では、「そんな余裕は持てない」「無理」という声を聞く一方で、私の周りにもずいぶん前から「稼働率7割」と似たようなことを言っていた経営者は何人もいました。何かあったときにすぐに対応するにはある程度の余裕、余力が必要という点は共通していましたが、そのニュアンスは二通りあって、一つはまさにビジネスチャンスをつかんで先行者利益を得るためということと、もう一つは災害なども含めた急なトラブルなどに対応するためとのことでした。

 

日常生活の中でも、最近は自分に必要最小限の持ち物だけで暮らす「ミニマリスト」のように、無駄なものをできるだけ持たないという考え方が注目される一方、特に食料品や身の回り品は、できるだけストックしておくことが災害時の備えとして重要という話もあります。

社会機能が通常通りであれば、特に物も持たなくても生活は成り立ちますが、もしものことがあったときに、一定以上の余力を持っておいた方がよいというのは、似たような話だと感じます。

 

ある程度の余裕、余力が必要という話は、たぶん多くの人が肯定的にとらえると思いますが、問題は「適切な余力」と「無駄」の境目はどこにあるのかということです。特に「無駄」ということでは、ある人にとっては無駄と感じることが、別の人にとっては無駄ではない必要なことであったりします。バランスの取り方は非常に難しいですが、注意しなければならないのは、「それは本当に“無駄”なのか?」という点です。

 

私が企業の現場を見てきた中で多かった「無駄」の判断間違いは、「誰でもできる仕事」「簡単な仕事」などの理由で、担当者を変えたり外したり、要員補充をしなかったりしたときに、それまで順調だった仕事が急に立ち行かなくなり、実はその人たちが目には見えづらいが重要な役割を持っていたと初めて気づくことです。仕事の属人化は良いことではありませんが、「無駄」に見えたことが、実は効率的な仕事で生み出された「適切な余力」であったりします。それに気づかず「無駄」と切り捨ててしまうことは大きな問題です。

 

一見「無駄」に見えても、実はそうでないことがたくさんあります。注意して見極める必要があります。

 

 

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