昨今の世の中は変化のスピードが速いことから、「現状維持は後退していることと同じ」などと言われます。特に経営者はこのことを意識している人が多く、現状からの改善、改革、新たな取り組みを常に考えています。変革を考え、そのための新たな企画やアイデアを考え、現状に満足せずに行動しようとします。こういう考え方と行動は、今のビジネス環境を考えれば正しいことです。
ただ、この動き方を「アイデア豊富」「企画力や発想力がある」などと肯定的にとらえられる人と、やろうとした取り組みを「場当たり的」「思いつき」「無計画」などと批判される人がいます。
この境目は、保守的な人から変化を好ましいと思う人まで、人によってとらえ方は様々ですが、私のように組織変革を必須と考える人間にも、無計画な思いつきにしか見えないことがあります。
ある社長は、自社の事業内容として、ともすればルーチンの繰り返しに陥りがちな環境の中で、自分なりに様々な企画案やアイデアを出して組織改革を継続しています。わりと保守的な社員が多いですが、みんなその取り組みを肯定的、前向きにとらえています。
結果としてうまくいくこと、あまりうまくいかないことの両方がありますが、いろいろ見直して変えていこうという姿勢が社内で共有されています。
その一方、ある別の社長は、社員から「社長のやることはいつも思いつきばかり」と批判されています。ある日突然予告もなく新たな施策が打ち出され、トップダウンで強制されます。社員は社長の意図を理解できず、納得していない状況で取り組みだけを求められるので行動は鈍ります。
これまで社長が打ち出してきた施策は数々ありますが、定着して結果が得られたものはほとんどありません。社長自身はいろいろやろうとするものの、継続が不得手ということもあり、社員から「どうせ思いつき」「すぐに飽きてやらなくなる」などと言われています。
経営者や上司によるこの手の思いつきは、実は多くの企業で起こっているのではないでしょうか。
アイデア豊富と言われるか、それとも思いつきと言われるか、その違いには例えば意見を聞かない、一方的、進め方が強引などという問題がありますが、これは変革が肯定的にとらえられていても、同じことが見られるときがあります。強引でも受け入れられることはあるので、一概に悪いこととは言い切れません。
私が今まで見てきた経験の中で、「アイデア豊富」と「思いつき」の間には、ただ一つだけ大きな違いがあります。それは「現状に見合った施策だと社員が思えるか」というところです。
「思いつき」と言われるケースでよく見られるのは、最近話題になっている、書籍が出ている、他社でうまくいったなど、流行りものやたまたま目についたものを、そのまま自社に取り入れようとしていることです。話を聞いたり本を読んだりして感化されたとか、直感的に思いついたとか、そんなことも含まれます。
それらを取り入れようとしても、自社の環境と大きくかけ離れているので、準備や段取りなしでいきなりうまくいくものではありません。変化の度合いが大きすぎると実施のためのノウハウがないので、効果は出ないし継続することもできません。プロセスを踏んで進める発想がなく、社長が思ったゴールまでいきなり持っていこうとします。
一方、「アイデア豊富」と言われる時は、やろうとしていることに現実性があります。世の中の動きや他社事例は参考にしますが、自社に導入したらどんなことが考えられるか、効果はあるのか、継続できるのか、定着しそうかなど、あくまで自社の環境や運用能力をベースに考えます。変革プロセスを考え、やってみて難しそうなことは実行可能なレベルになるように内容を見直します。一気に理想を目指さず、「できるものから少しずつ変えていくこと」を重視します。
こうやって見ていくと、「思いつき」がかなりのチャレンジ目標であるのに対して、「アイデア豊富」は実現可能なストレッチ目標と言えるかもしれません。
「思いつき」を続けていると、社員は「またか」と呆れ、組織変革への推進力はどんどん失われていきます。「背伸びすればできること」の繰り返しと継続が、現状維持の打破には最も有効ではないでしょうか。
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