2022年5月23日月曜日

「目標を宣言する仕組み」が逆効果になること

自身の目標を前もって公言させることで、その目標に対するモチベーションが高まって取り組みを確実に行うようになり、その結果として目標達成の確率が高まるというものがあります。「パブリックコミットメント」などとも呼ばれ、宣言することによって責任感が生まれ、実行しようという意思が強まるとされます。

人間の心理には、最後まで一貫性を持った行動や態度を取ろうとする「一貫性の法則(原理)」と呼ばれるものがあり、一度口にしたこととの整合を取ろうと意識するため、目標達成度は上がるといいます。他人からの目が働くことで、噓をつきたくない、信用・信頼を得たいという意識が働くといった理由もあるそうです。

「有言実行」などといいますが、“有言”によって“実行”せざるを得なくなり、行動が伴いやすくなるようです。

 

そんなわけで、企業組織においては、「目標を宣言する仕組み」が、様々なところにちりばめられています。目標管理制度などはまさにそうですし、経営計画、事業計画、部門計画などのたぐいは、すべてが「目標の宣言」に該当するでしょう。企業の様々な活動において、目標達成の確率が高まるなら、それをやるのは当然のことだと思います。

 

ただ、実際に現場で行われていることは、そんな理想的な話ばかりではありません。「目標の宣言」を制度によって強制的にやらせるわけですが、そうなれば決して好ましいとは言えない駆け引きのような行為が出てきます。

 

一つは、達成見込みが高い簡単な目標設定で済まそうとすることです。安易な目標がそのまま認められるのは難しいとしても、少しでも難易度を下げようとする駆け引きは、何らかの形で行われます。

当事者にとって達成が難しい目標は、ほぼ強制された目標と同様になり、押し付けられたノルマという感覚になります。自発的ではない強制された目標に責任感を求めても、それが目標達成率の向上につながるのかは何とも言えません。

 

もう一つは、必要最低限のこと以外は目標として宣言しないということです。目標にしなければそれを周囲から突っ込まれることは避けられるので、心の中では思い描いている目標であっても、強く要求されでもしない限りは表向きに宣言しようとはしません。目標に取り上げないことで、よけいなプレッシャーや干渉を受けずに済まそうということです。

 

企業の中で、自分の意志で目標を決められるケースというのは、実はそれほど多くはありません。業績目標などで、ある程度の意見や希望は言えたとしても、基本的にはすでに決められた数字が上から降りてきます。言い方は悪いですが、自分の意志で決めたわけではない目標への宣言だけを求められることになります。それで本当に目標達成度が高まるのかは疑問です。

 

ここで重要になるのは、いかに自分で腹落ちした目標にできるかどうかということです。100%は難しくても、自分で決めて納得した目標でなければ、目標を宣言することの効果は薄くなります。ここでは目標を腹落ち、納得させるためのプロセスが大事になりますが、そんなやり取りの機会や時間が与えられて、それが実際に行われていることはそれほど多くはありません。

 

目標を宣言させる仕組みは数多くあるのに、今一つ効果的に機能しないのは、こんなところにも理由があるように感じます。

「納得した上での自律的な目標」に少しでも近づける取り組みが必要です。

 

 

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