2016年5月20日金曜日

「再雇用の給与引き下げ違法判決」「同一労働同一賃金」は正論と思うが正解になるか



「定年後の再雇用でも業務が同じままならば、賃金を引き下げるのは違法である」という判決が東京地裁で下ったことが話題になっています。
私の周りにも、定年前とほぼ同じ仕事をしているにもかかわらず、再雇用で給与が激減したことへの不満をおっしゃる人がいますが、一部のメディアでは今回の判決を画期的などと称賛する声があります。

日本の終身雇用を前提とした給与体系では、若いうちは相対的に低い給料で働き、年齢が上がるとともにその借りを取り返すという形なので、同じ仕事をしていても、勤続の長い人の方が高い報酬をもらう仕組みになっています。
定年までに借りが終わる前提の設計なので、定年後の給与は激減となりますが、働く人からすれば、確かにこれは理不尽なことです。判決は一つの正論であると思います。

また、ここ最近、政府の一億総活躍プランの中で「同一労働同一賃金」を目指すとされており、判決はその流れとつながっているとも言われています。

「同一労働同一賃金」は、欧米では性別や国籍、年齢による差別を禁止する意味合いが強いそうですが、日本の場合は正社員と非正規社員の賃金格差が取り上げられています。何をもって同一労働というのかは、なかなか難しい問題ですが、基本的な考え方自体は、やはり正論だろうと思います。

 この流れの中で私が思うのは、この正論に近づければ、多くの人が納得できるような正解に、果たしてたどり着くのだろうかということです。

例えば、再雇用後の急な賃金削減がダメならば、それを見据えて、定年前から役割や仕事内容を見直していくということをするようになり、役職定年や異動などのタイミングから、その後徐々に降格させるような形を取るのではないかと思います。

また、生涯賃金の額は変えないという考え方があるので、毎月の給与を減らして定年後まで平準化することが考えられます。
元のままの役割で残る人がいる一方、そうではない仕事を与えられて、賃金は新入社員並みのような人が出て来るかもしれません。

「同一労働同一賃金」となれば、賃金額に対応した仕事内容となるので、その人の能力に見合った仕事が与えられるとは限りません。結果的には「力の出し惜しみを強要される」というような状況があり得るので、そういう人がやりがいを持って仕事を続けるのは難しいかもしれません。

それ以外にも、昇給を避けるために会社がずっと同じ仕事を与え続けるとか、長期的な視野を持たなくなくなって、今まで以上に教育が疎かになるとか、働く人のキャリアの上でのデメリットが考えられます。

正社員と非正規社員の賃金格差という点では、非正規社員の賃金だけを正社員並みに引き上げることは考えづらく、真ん中を取るような形になれば、正社員の賃金は下がる方向になるかもしれません。

このように、一部だけを切り取って見れば、定年を迎えただけで賃金が下がるというようなことはなくなるかもしれませんが、賃金制度というのはその企業の中に閉じた原資配分の話なので、誰かの給料が増えれば、誰かの給料が減るということになります。「仕事内容が変わらない再雇用の人」に今まで通りの給料を払うのであれば、そのしわ寄せはどこかに行くことになります。

再雇用の給与引き下げが違法ということも、同一労働同一賃金ということも、それぞれ正論ではありますが、これを正解に導くには、それなりの時間がかかるということ、直接影響がなさそうでも関係する人が大勢いるということ、メリットがある人とない人が混在するということは、理解しておかなければなりません。

 いずれにしても、これからの日本の賃金制度は、大きく変わっていかなけれなならない時期になってきたのは間違いないと思います。


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