2020年9月21日月曜日

経験してきたプロセスで「効果」が違う

人事・組織マネジメントの施策は、新しい考え方がどんどん生まれていて、多くの会社で様々な試行錯誤を通じたレベルアップがされてきています。

今でも「“日本的経営”は人にやさしい」などと言う人がいますが、実際には外資系企業の方がよほど個々の社員に親身に向き合って、温かさを感じることがあります。特に古いタイプの日本企業には、温かさよりは押しつけや冷たさを感じてしまうことが増えましたが、常日頃から会社と社員の良い関係作りを考え続けている会社もたくさんあります。本当に企業によって様々です。

 

人事・組織マネジメントに関する最近の方向性は、「多様化」「個別化」「上下関係のフラット化」といったキーワードが挙げられます。

これらに関連する動きとしては、短時間勤務や勤務地限定といった「勤務形態の多様化」、社員のランク付けや年次評価をやめる「ノーレイティング」、短い期間で定常的に上司・部下面談をおこなう「1on1ミーティング」のようなコミュニケーションの見直し、指示命令でなく本人の意思決定を尊重した「自律的組織運営」などがあります。

 

こういった話をしたとき、その反応は会社によって大きく違っていて、基本的には「そもそもうまくいくはずがない」「うちには関係ない」など、初めから否定的な反応をする会社と、逆に何らかの興味を示す会社のどちらかになります。

初めから否定する会社に対して、個人的には「門前払いではなく、もう少し考えてみればよいのに」と思うことはありますが、相手の興味が変わらなければどうしようもありません。

 

ここで興味を示す会社にも二通りの場合があり、興味と成功事例のイメージばかりが先行して、自社の状況を考えていない場合と、反対に冷静に自社の状況を分析している場合の両方があります。

問題になるのは前者の方で、オーナー社長が他社事例に感化されて、鶴の一声で制度を導入してしまうような場合があります。しかし、企業文化の変化を促すような施策を、ただ聞きかじってきた良い結果だけを求めて真似しても、その結果のような効果を生むことはありません。施策を成功させている会社とは、それまでに経験してきたプロセスが違うからです。

 

少し昔の話ですが、ある会社では、現場に計数意識がなく、目標達成意識も薄いぬるま湯体質があるとのことで、超・結果注目の成果主義を導入しました。何でも数字の結果のみで評価されるわけで、それまでの組織風土とは正反対のやり方です。当然ですが副作用は大きく、社員の不満も増していきました。

そこから、きつい成果主義のニュアンスを緩めて、あらためて一定のプロセス評価も入れた制度に改訂し、そこから徐々に運用を定着させていきましたが、その中では当初問題だった計数意識や目標意識の不足という問題もなくなっていきました。一度極端なやり方を経験したことで、自分たちに合った適切なやり方を見つけて落ち着いたということです。

 

ここで、同じようなぬるま湯体質に問題意識を持つ別の会社は、この話から「行き過ぎた結果主義は弊害が大きい」と学習し、そのことを意識した制度を導入しました。

しかし、当初からのぬるま湯体質にはあまり変化が見られません。どうも社員からすると、制度導入による変化をあまり感じておらず、意識や行動を変えるところまでにはならなかったということのようです。成功例との違いは、一度極端なやり方のデメリットや理不尽を知るという、プロセスを経験したかどうかという違いでした。

 

他社事例を手本にしたが、あまりうまくいかないといった話は本当にたくさんあります。過去のプロセスが成否に影響することに気づき、あえて今までとは正反対のやり方や、社員が許容できないようなやり方を経験させて、その後から想定していたやり方に移行するというプロセスを意識的に取った会社もあります。

 

新しい人事施策は、様々なやり方に積極的にトライしてほしいですが、良い効果を得るためには、これまでの経緯はどうだったのかも含めて、最終形に至る道筋を考えておくことが必要です。

結果だけを真似しようとしても、そこに至るまでに経験してきたプロセスを無視しては、思ったような「効果」は得られません。自社の状況に合わせた展開ストーリーを意識しましょう。

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿