古くからの慣習で、新入社員に電話番を強制することを「TELハラ(テルハラ)」というそうです。その名の通り「電話のハラスメント」という意味で、誰でも対応可能な「電話応対」を新入社員に強制させるのはハラスメントだと主張されています。
実際に企業の新人研修などの様子を見ていると、この「電話応対」に苦労する新人が非常に多いのは確かです。アルバイトなどで特別に経験でもしていない限りは、ほとんどの人がうまくできない、できれば避けたい、やりたくないという状態です。
今の新入社員世代の人がそう思ってしまうのは、やむを得ないところがあります。そもそも産まれた時から携帯電話が一人一台に普及していて、固定電話にはナンバーディスプレイがあって、「知らない電話には出てはいけない」と子供のころから親に言われて、「他人の電話を受けて取り次ぐ」という経験自体をまったくしたことがないような人が大半です。
こんな新入社員に対して、「電話応対すらできない」との言い方で批判する先輩社員が今もいますが、やったことがなければできなくて当然です。社会環境が大きく変わっているにもかかわらず、「電話応対くらい…」と言ってしまうのは少々酷な話でしょう。
ただ、この「電話応対」をハラスメントと言ってしまうことには、私は強い違和感があります
将来的には「電話」という手段のコミュニケーションは減っていくでしょうし、今でも携帯にかければ電話取り次ぎは限りなく少なくすることができますが、それでも現状では仕事上で「電話応対」が必要なことは間違いありません。いくら「できない」「嫌だ」「苦手」「やりたくない」といっても、仕事として必要であればやらなければなりません。こういう点でセクハラやパワハラのような、本質的なイジメや嫌がらせにあたるハラスメントとは違っています。
会社における「電話応対」には、新入社員に知ってほしいことや身に着けてほしいことに取り組む機会がいくつも含まれています。
一つは「敬語を使ったコミュニケーション」で、これは繰り返し経験して慣れるしかありません。会社の電話応対でタメ口はありませんから、敬語を訓練する機会としては有用です。
もう一つは、「社員や顧客、その他社内事情がわかる」ということがあります。電話応対をしていると、社員や顧客とのやり取りを何度も繰り返しますが、それをしているうちに人の名前や部署を覚え、よく連絡がある顧客先の会社や担当者を覚え、それぞれの関係性も何となくわかってきます。身近にいて一緒に仕事をする他の社員の顔と名前を一致させることや、取引先の会社や担当者の名前を知るには良い機会になります。
さらに「自分のことを他の社員に覚えてもらえる」ということもあります。よく電話で話す新入社員として、他の社員の記憶に残りやすくなります。新しい環境の中で早く認知されて損をすることはありません。
このように、新入社員が早く会社になじんで仕事を円滑に進められるようにするための一つの手段と考えると、「電話応対」に取り組ませることにはそれなりの意味があります。
しかし新入社員からみると、その部分が共有されずにただ嫌な雑用を押しつけられたと思ってしまうために、「ハラスメント」という感覚が出てきてしまうのでしょう。
特に新入社員で会社のことがよくわからないうちは、電話応対によって得られる情報やスキル、人間関係があります。苦手であっても意味があることだと理解して取り組めば、必ず自分のためになるはずです。
これをハラスメントと言ってしまうのは、私には仕事を身につけるプロセスを拒んでいるように見えてしまいます。
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