2017年2月6日月曜日

人材育成につながる「疑似体験」を増やす工夫



あるウェブ記事で、関西にある人気洋菓子店の人材育成に関する取り組みが紹介されていました。
こちらの社長は、約70人いる社員全員と毎日日報でやり取りをするのだそうです。罫線だけが引かれた自由書式に書かれた内容すべてに目を通し、翌朝社員へのメッセージを赤字で書き添えて返すのだそうです。
また、「少しずつ書く量が減っていたり、同じような記述が続くようになったりしたら要注意」とのことで、社員の心の内を見るように細心の注意を払って読み、悩みを抱えていないか、職場で問題が起きていないか、すぐに本人を呼んで確かめるのだそうです。

経営トップによる緻密な取り組みとしては素晴らしいと思いますが、私が興味を持ったのは「失敗報告会」という取り組みについてです。

閉店後に約30人の製造部門の社員が集まり、1日を締める終礼で、その日に自分が犯したミスを事細かに、さらにその原因やどうすれば失敗を防げるかなどを、自分なりに考えをまとめて発表するのだそうです。
“失敗を全員で共有して学びに変える”という取り組みで、こちらの社長は「失敗してもそれを皆の前で話してくれたら、それはもう失敗ではない」と伝え続けているのだそうです。

「失敗の共有」とだけいうと、それほど珍しい考え方ではないと思います。どんな会社でも品質管理の仕組みがあり、ミスを改善するための様々な取り組みがされています。ISOなどの規格もそうでしょうし、ヒヤリハットのような取り組みもあるでしょう。

ただ、私が今まで見てきた中で、ミスの内容を問わず、その失敗がまだホットなうちに、当事者からの話を関係者全員で共有するという取り組みを、ここまで徹底して実行している会社はそれほど多くはありません。
仮に何かをやっていたとしても、もっと全然頻度が少なかったり、成功事例と失敗事例が混在していたりします。どちらかといえば失敗の方が積極的には語られにくく、そのアクションは遠慮がち、遅め、後回しになりがちです。しかし、実は失敗事例の方がすぐに向上につなげられる学びが多かったりします。

こういうことを、私は「疑似体験」の一環と捉えています。
私自身がどちらかと言えば環境先行型、体験重視型なので、よけいにそう感じるのだと思いますが、何かを学ぼうとするときに、「リアルな実体験」が最も学びに直結しやすいことは確かだと思います。
ただ、そうは言っても自分で経験できることには限度があり、その範囲だけではまったく狭い世界で広がりはありません。ここで大事になってくるのが「疑似体験」です。

「疑似体験」で一番いいのは、やはり実際にその経験や体験をした人から、直接話を聞くことでしょう。しかしここにも限度がありますから、それ以外は誰かからの間接的な伝聞や、メディアなどを介した情報や、書籍や書物からの知識などとなっていくのでしょう。「人の話をよく聞きなさい」も「本を読みなさい」も、そうやって「疑似体験」の機会を増やして、自分の学びにつなげなさいという教えなのだと思います。

紹介されていたこの洋菓子店では、最上級の「疑似体験」といえる、「その経験や体験をした人から、直接話を聞く」という機会を頻繁に作っているということで、これは人材育成の方法としては、それなりに理にかなった好ましいやり方ではないかと思います。

「疑似体験」の機会を増やすという考え方で、人材育成の手法を整理してみると、意外にいろいろ工夫の余地があるように感じています。


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