昨今の売り手市場の就職活動では、知名度が低い中小企業にとっては一層厳しい採用環境ということで、これらの会社はいかに学生にアピールをするかで様々な工夫をしています。
ある記事によれば、「社長の人柄」のアピールで、学生から一緒に働きたいと思わせようとしたり、長期のインターンシップで会社を理解する時間を設けて、就職したい気持ちが醸成されるように仕向けたりといったものがあるようです。
記事の中では、学生に選ばれる会社の条件として、「成長機会」「アットホームな人間関係」「働きやすい環境づくり」が挙げられていましたが、私が就職活動の現場の様子を見ていても、確かにそれを感じます。
この中にある「アットホーム」というキーワードは、相当な昔から中小企業が自社アピールをする際に使われています。少し前にお話を聞いたいくつかの会社も、自社を表現する中で、この「アットホーム」という言葉が出てきました。
ただ、私はこの「アットホーム」という言葉を、企業アピールに使ったことがありません。
その理由は二つあり、一つはあまりにも多くの会社がそう言っていて差別化にならないということ、もう一つは「アットホーム」がどんな社風なのか、自分自身がはっきりわからず説明もできないからです。
「アットホーム」の言葉の意味を調べると、“自分の家にいるようにくつろげるさま”“家庭的”とあります。
このままとらえれば、「アットホームな会社」は“自分の家にいるようにくつろげる会社”“家庭的な会社”となりますが、これではあまりにも漠然としていて、その会社の具体的な様子はわかりません。
言葉を置き換えてみると、「精神的な圧迫が少ない」「人間関係がギスギスしていない」「上下関係が緩やか」「本音を話し合える」「和気あいあい」といったイメージですが、これらはその人によって感じ方が違うものなので、自分の会社がその人にとって「アットホーム」だと言い切れる根拠にはなりません。
つまり、「自社がアットホーム」という情報は、その会社の社員が感じている雰囲気が何となくわかる程度で、応募者にとって具体的な情報は何もありません。
にもかかわらず、会社側は「アットホーム」というキーワードを一生懸命発信し続けていたりしますが、中小企業の場合、アピールできる強みが足りないことが多いので、こういうホワッとした言い方も仕方がないところはあります。
このことについて、ある会社に私がお話ししたのは、「“アットホーム”の具体的なエピソードを挙げる」ということでした。社員が「こんな場面で自社のアットホームさを感じた」という具体的な話を、アンケートやヒアリングを通じて収集し、それを応募者に対して伝えるのです。
何がその人のツボにはまるかは、たぶんまちまちですが、それに共感する人は会社の価値観に近い人ですし、そういう人が多ければ多い人、自社の「アットホーム」には裏付けができます。応募者もイメージがしやすくなります。
商品、サービス、その他事業内容など、明確な強みがあればそれをアピールすればよいですが、そう言い切れない会社は数多く、そういう会社では社風や人柄といったところから、相手の主観に訴えなければならないことも多いです。
会社は自分たちが思う「アットホーム」の中身をできるだけ具体的に示し、応募者はそんな情報から自分の価値観との合致度合いを知れば、お互いの意識のミスマッチは減らすことができます。
「アットホーム」のアピールは、しっかり説明することが必要です。
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