2019年11月18日月曜日

「社員に配慮した制度」に足りなかった配慮


ある大手企業の関連会社に勤める若手社員から、こんな話を聞きました。
最近の「働き方改革」の流れもあり、社員の遠距離通勤の負荷を緩和する一環で、それまでもあった「家賃補助制度」で、対象になる人の範囲が拡大されたそうです。従業員満足や職場環境向上策の一環として、社員の福利厚生をより充実させようとの意図もあるようです。
ただ、その制度を使った人たちは、あまり表沙汰には言っていませんが、内心で不満に思っていることがいくつもあるのだそうです。

まず、この「家賃補助制度」は、現状で片道1時間半以上の通勤時間がかかることが条件ですが、この境目が結構グレーゾーンなのだといいます。原則は通勤経路で認められた乗換案内の所要時間によりますが、最寄り駅から家までの時間や電車遅延の頻度などの見方によって、判断が変わるそうです。
また、「家賃補助額」は、転居先の地域によって金額に違いがあり、家賃相場が高い地域は補助額も増えますが、こちらも地図上で厳密に線引きされている訳ではないので、同じようにグレーなのだそうです。

ここで一番問題なのは、実際に対象になるのかも、補助額がいくらになるのかも、事前には教えてくれず、申請してみないとわからないことだといいます。
また、申請のためには物件の賃貸契約書のコピーが必要とのことで、これがどういうことを意味するかというと、家賃補助があることを想定して転居したのに、その対象に認められない可能性があるということです。さらに、家賃の補助金額がいくらかによってどの物件にするかを決めたくても、事前にわからないのでそれはできません。
申請が通るかを上司に尋ねても、「たぶん大丈夫だと思うけど」と他人事で、会社の担当部署に問い合わせてくれることもなかったそうです。

ここからは想像ですが、会社の担当部署の考え方としては、たぶんすべての情報を集めた上で公正な判断がしたいので、そのためには関連書類は全部が必要なのでしょう。公的機関の補助金申請などと同じ考え方と思えばわかりやすいかもしれません。

しかし、公的な補助金はそれで良くても、会社の福利厚生はそうではありません。単なる費用補填ではなく、従業員満足や勤労意欲の向上、会社への定着強化といった目的があります。公平な手続き以上に、そちらの目的が優先です。

この会社の制度運用を聞いていると、せっかく「社員に配慮した制度」に見直したはずなのに、実際には配慮が足りていません。そのせいで社員の不満や反感につながってしまっています。
とても気になるのは、どこか「会社はお金を出してやっている」「社員は会社に従うもの」という上から目線で見下ろした態度が感じられることです。
私の経験上で言えば、たぶん上司部下の関係性や、日ごろの仕事の進め方などでも、同じようなことが重なっているはずです。この会社では、若手社員が定着せずに辞めていくケースの多さが問題視されているそうですが、この手のことがいくつも重なった組織運営や企業風土が確実にあり、そこにも原因があるのは間違いありません。

制度見直しなどで仕組みをいろいろ変えても、企業風土の本音は隠せないところがあります。目的は「社員に配慮した制度」であったとしても、それに反する企業風土を持っていると、その姿勢がどこかで見え隠れします。
これを解決するには、そもそもの企業風土の問題に、関係者が気づいて直していくしかありません。しかし、自分たちが当たり前にしていることの問題には、なかなか気づけないものです。
まずはこういった制度見直しなどを通じて、そもそもの目的を考えて、その目的に沿った配慮を意識していくしか方法はないのではないでしょうか。


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