「ブレーン」という言葉があります。
直訳すれば「頭脳」や「脳」という意味ですが、政治やビジネスの世界では、「専門的なアドバイスをくれる優秀な相談役」という意味で使われます。
経営者をはじめ、リーダー的な立場を担う人には、この「ブレーン」のようなアドバイザー、助言者、忠告者という人が、何らかの形で必ずいると思います。
ここで、最近よく目についてしまうのが、権力があって、優秀で頭がよく、それなりに人格者と思える人が、不正を犯したり独断に走ったりという話ですが、それを見ていていつも思うことがあります。
問題を起こすのは、経営者や政治家、官僚、その他組織のリーダーたちですが、そういう人たちは絶対に一人ぼっちでそういう行為をしていた訳ではありません。必ず周りには「ブレーン」と呼ばれる人がいたはずですが、起こしてしまう問題行動の歯止めになっていません。
せっかくの「ブレーン」が機能していないわけですが、問題はそれがどういう人たちで、見過ごしたのか、それとも忠告を無視されたのか、いったいどういう状況だったのだろうかということです。
自分の「ブレーン」となる人は、組織の統治機能に含まれていることや、他人がお目付け役として選ぶことはあるでしょうが、多くは何らかの形で本人が関与した中で選ばれるはずです。
そこではもちろん幅広い意見を求めて人選する人はいるでしょうが、問題が起こっているケースの多くは、自分の付き合いの中の「意見が合う人」「気が合う人」で、周囲にいる人を固められています。
物事を早く決めて、推進力を高めようとすれば、確かにそれも一理ありますが、その分拙速に陥りやすくなり、施策にバランスを欠くことが増えます。
また、情報というのは、自分の意に沿うことや共感することは強く印象付けられ、意に反することは排除されやすくなりますから、「気が合う人」で周りを固めて、そこから自分の共感できる話ばかりを聞いていると、そのことに疑問を持たなくなります。結果として、自分の偏りに気づくことができません。
ある若手経営者が、共同経営者となるパートナーの紹介を周りに求めたときの条件は、「業界事情に詳しい年齢の離れたベテラン」だったという話があります。その理由は「自分にないものを補ってもらい、いろいろ教えてもらうため」だったそうです。今はそれなりの地位を築いた、立派な企業になっています。
このように、必ずしも意見が同じではない「気が合わない人」に身近にいてもらうことは、自分の偏りに気づく上では大きなメリットがあります。
もちろん友人は「気が合う人」がいいですし、スタートアップ企業などでは、スピードを重視して少人数の「気が合う人」で、とにかく突き進むことはあり得ますが、それなりの企業、組織、チームを代表するような立場のリーダーは、行き過ぎた独断や自分の意見の偏り、金銭感覚をはじめとした甘さなどを、正してくれる身近な他人が必要です。
そのためは、自分と意見が似ている「気が合う人」よりは、違う視点からの意見を持っている「気が合わない人」の方が重要です。ちなみに「気が合う人」には「反対しない人」「発言しない人」など、自分にとって都合がよい人も含まれます。
自分の「ブレーン」として、本当の意味でふさわしい人は、「気が合う人」ではなく、「気が合わないけれども信頼できる人」ではないでしょうか。
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