2016年10月5日水曜日

何となく良い気持ちになれない「内定者フォロー」の年ごとの温度差



10月初旬は、多くの企業で来春入社予定の学生の内定式が行われます。
今年は「売り手市場」ということで、内定者をつなぎとめ、辞退を防ごうと、様々な工夫を凝らした企画がされているという新聞記事がありました。

事前には知らせずに、自社製品を使って料理をする「サプライズ研修」、オリンピックメダリストの社員の参加などが紹介されていましたが、他社でもいろいろな工夫を施した内定式が催されたようです。
ちなみに、企業が今年4月入社の新入社員の「内定者フォロー」にかけた費用は、2011年卒に比べて3割以上増えているそうで、来春以降はさらに増えそうだという見通しが語られていました。

私のもとへも、この内定者フォローに関する相談は何件かありましたが、どの企業も内定辞退に困っており、少しでもその数を減らしたいということでした。
そのためには、やはり「内定者フォロー」は緻密に手をかけて行う必要があり、そこでのいろいろな考え方をアドバイスしますが、そもそもの採用活動のやり方や、企業全体の見られ方も関わってきますので、それをやれば確実に引き留められるという保証はありません。
かといって、やらなければ事態はさらに悪くなることしか考えられないので、できるだけのことはやらなければならないというのが実際のところです。

しかし、私はこの「内定者フォロー」は、会社と内定者の認識ギャップを埋めたり、入社までの心の準備を積み上げたりする大切なものだと捉えていますので、「内定者フォロー」を重視しようという動き自体は、好ましい傾向だと思っています。

ただ、最近の動きを心の底から良いことだと思っているかといえば、残念ながらあまり良い気持ちではありません。「内定者フォロー」の本来の目的は、内定者の入社までの心の準備を助けることのはずで、もちろんそういう意図を含んで実施している企業が大半ではあるものの、それよりは人数確保という会社の事情が前面に出てしまっているように感じるからです。

この「内定者フォロー」の就職氷河期の頃の様子を思い出してみると、それまでは夜に懇親会付きでやっていた内定式を昼間の式典だけにしたり、それまで実施していた内定者研修をやめてしまったり、フォローのための行事の回数を減らしたり無くしてしまったり、とにかく手間と予算を削減する動きが非常に多かったと思います。
ある会社では、内定者に必要以上の連絡を取らなかったため、心配した内定者の方から問い合わせをしてくるようなケースもありました。それくらい放置している会社もあったということです。

それに比べての今年の状況ということですが、“買い手市場”から“売り手市場”に転換したことで、企業側の態度は手のひらを返したようになっています。その意味するところは、「内定者フォロー」は内定者のためにやっていることではなく、会社の都合でやっているというところが、いかに多いかということです。

これが私が良い気持ちになれない理由ですが、それでも少数ながら、採用市場の動向に関わらず、毎年コンスタントに「内定者フォロー」を続けている会社があります。本来の目的である「内定者の心の準備」のためにやっていて、その結果、一般に言われるよりも新入社員の定着率は高くなっています。

市場原理で動き方が変わるのは、資本主義であれば当然のことですが、それだけで揺れ動いていると、こういうところに差が出てきます。
今一度、「内定者フォロー」の本来の目的を考え直す時期に来ているのではないでしょうか。


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