2016年12月23日金曜日

「社員に対する優しさ」の視点の違い




最近は、基本的な法律すら守らない「ブラック企業」の話題が多いこともあり、その反動なのか「従業員満足」を重視しようという会社が増えているように思います。

「従業員満足」というのは、個人の主観による部分も多く、例えば給料が高ければそれで満足するというものではありません。他にも仕事が面白い、人間関係が良い、社会貢献ができる、福利厚生が充実、企業の知名度など、それぞれ満足を構成する要素は確実にあるものの、それだけでみんなが満足するというものではありません。
満足を感じる優先順位は、それこそ人によって千差万別で、関係するすべての要素を高めなければ、満足にはつながりません。

これは会社の立場からも、同じようなことが言えます。何を重視しているのかという価値観の違いです。

先日おうかがいしたある機器メーカーは、私から見るとかなり古いスタイルの人事制度を今でもそのまま運用しています。定年までは多少なりとも給料は上がり続け、役職の異動はあっても降格は絶対にありません。社員数のわりには組織が細かく分けられていて、ポストがそれなりに用意されています。

社長に話を聞くと、降格などはやる気をなくすのでもってのほかだし、それと同じ発想で給料を下げるというような考えもないそうです。業績が悪ければできるだけみんなで分かち合い、良い時もみんなが頑張ったおかげと考えて、同じくみんなで分かち合います。

ただ、そこでは年功重視の役職任命によるマネジメント力不足が起こっていて、これが会社の課題となっています。
私にはマネージャーの完全な能力不足、資質不足と見えるので、はっきり言って異動や配置転換を考えなければ解決は難しいと思うのですが、それは避けたい意向のようで、できれば研修や個別指導を通じて改善したいと考えているようです。
そうやって社員の活かし方を考えるのがこの会社としての価値観で、「社員に対する優しさ」ということだそうですが、現状では組織の硬直化と守りの姿勢が目立ちます。

これに対して、社員との関係性はとにかくドライというあるIT会社があります。給与も賞与も、成果に応じた時価精算の色合いが強く、減俸も降格もまったく躊躇がありません。
仕事をする場ということで、オフィス環境の整備にはそれなりの投資をしていますが、その一方仕事とは必ずしも直接つながらない福利厚生面などについては、ほとんど手をつけません。

この会社の価値観は、仕事は仕事、プライベートはプライベートとけじめをつけることで、会社が投資するのは直接仕事に関わることのみと割り切っています。その時その時の仕事ぶりを評価し、その良し悪しははっきりフィードバックし、会社と社員との信頼関係に基づいて処遇をすることが「社員に対する優しさ」だととらえています。

この会社で不満となって出てくるのは、評価の公正さという問題が多く、ともすれば人間関係が希薄になりがちなところもあります。ただし、慣れ合いを許さない雰囲気があり、不備や不満を放置しないので、組織としての活気はあります。

見れば見るほど正反対の価値観の会社ですが、それぞれ共通して「社員に対する優しさ」は持っていると自負しています。

私がこの両社を見ていて感じるのは、「注目している視点の違い」です。
前段の会社は、ベテラン社員が多いため、できるだけ変化を少なく、確実に雇用を維持し、安定的に働いてもらうことを主眼にしているように見え、後段の会社は、変化を恐れずに変えるべきものはスピーディーに変え、その場その場の成果を重視し、実力のある者が上の立場で指揮を執ることが当然と考えています。結果として人材流出はありますが、それもある程度やむを得ないことと許容しています。

どちらの会社がより「社員に対する優しさ」が大きいか、私には判断できません。考え方が違う背景には、業種の違いや企業ステージの違い、年齢構成の違いや業績の違い、その他いろいろな要素がありますが、一つだけ言えることは、時と場合によって、それぞれどちらの考え方も必要になってくるということです。

いつまでも現状を守ることでは会社は衰退していくだけですし、いつまでもドライでイケイケのやり方では、いつか頭打ちになる日が来るでしょう。
「社員に対する優しさ」というのは、ただ言うことを聞けばよい訳ではなく、既得権を守ってあげればよい訳でもなく、ただ甘やかすということでもありません。もし会社がなくなっても市場価値がある人材にするために、厳しさを持って育成するということも、ある意味では社員への優しさと言えます。

結局は、その会社の価値観に共感している社員が多いほど、「社員に対する優しさ」が大きい会社といえるのではないでしょうか。

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