2018年3月21日水曜日

「理想」と「現実」のギャップ


これはもう数年前のことになりますが、ある有名企業から某中小企業に転職してきた部長の話です。
当然のことですが、転職先の中小企業は、会社の仕組みや運用、人材レベルやマネジメント能力など、整っていないことがたくさんあります。この部長が考えたのは、まずはとにかく自分の問題意識を他の社員や管理者、さらに社長や役員たちと共有することでした。

いろいろな人とコミュニケーションを取り、元の会社のことを決して押し付けることはせず、共感が得られるように注意を払って話をしながら、徐々に問題意識を共有していきました。
この部長が投げかける内容は、会社にとっても十分に的を得た前向きなものだったので、その言葉を信頼する社員が増え、課題共有は思い通りに進んでいきました。

それから半年ほどが経ち、この会社の状況がどうなったかというと、大きく変わったことは何一つありませんでした。この部長に対して社員たちは、「確かに話は聞いてくれるけど、結局自分では何もしない」という評価です。いろいろな課題指摘をしていて、「これが必要」「あれは直さなければ」と言いますが、それ以上は何も進みません。社員と課題共有をして巻き込んだところまでは良かったのですが、そこから先で最も重要な「実行力」が、この部長には欠けていました。

そうなってしまった理由は、私が見る限りでは大きく二つあります。
一つは、有名企業の部長クラスともなれば、「こうやろう」と初めの音頭さえ取れば、あとの細かいところは部下たちが段取りをして進めてくれるようなところがあります。もちろんすべての大企業がそうではないですし、特に最近はどんなに上位の管理者でも「自分のことは自分でやる」というところが多いですが、この部長は少し昔ながらのスタイルの人で、細かいことは部下任せのようなところがあり、その感覚をそのまま持ち込んでしまっていたようでした。
決して実行力がない人ではありませんでしたが、特に中小企業では、それでは物事は進みません。

そしてもう一つは、「理想」と「現実」のギャップが大きすぎたということがあります。この部長が経験してきた環境は、企業として一流のものですから、それと比較すればどんな企業でもそれなりにアラが見えてきます。しかし、このギャップが大きければ大きいほど、改善するプロセスをよく考えなければなりません。マイルストーンになる目標を設けたり、ゴール設定自体を見直したりすることも必要になります。
「理想」を高く持つのは良いですが、「現実」からかけ離れた「理想」は、具体的な目標にはならなくなります。この部長はそのことに気づくことができませんでした。

人任せにせずに自ら動くことは当然として、「理想」と「現実」のギャップというのは、その距離感をきちんと押さえないと、実行力がどんどん伴わなくなります。
ジョギングを始めたばかりの人にフルマラソンの話をしても、それがすぐ具体的な目標になることはありません。

「理想」を高く持つことも必要ですが、私はどんなに小さなことだとしても、それがほんの少しだけであっても、前に進むことの方が大事だと思います。

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